2024年5月15日(水)

経済の常識 VS 政策の非常識

2024年3月11日

 巨大な公共事業でかかるのはお金だけではない。時間がかかる。東日本大震災で被害が激甚だった地域は、農業と漁業と観光が中心産業である。個人の生産手段や住宅の復旧を援助すれば、素早い復旧が可能になる。5年も時間をかければ、働ける人は仕事のある場所に移動してしまい、地場産業を復興することはできなくなる。

すでに失敗は分っていた

 神戸大学の塩崎賢明名誉教授は、「開発復興は自治体財政を悪化させ、本来進めるべき災害への備えを困難にする」と指摘している。また、災害復興が、震災前より高い水準を目指すことであるかのように往々に語られるが、被災した多くの人にそのような余裕はないという。

 塩崎教授は、復興を従前より高い水準に達することとせず、「災害によって衰えた被災者や被災地が再び盛んになること」と捉えるべきであるとする。国民が合意できる目標は、被災者が元に戻ることである。さらに高い目標を目指すのは、各個人や各地域の意欲や努力による(塩崎賢明『住宅復興とコミュニティ』、日本経済評論社、2009年)。そうであってこそ、被災していない国民が被災者を助ける意義も明らかになる。

 創造的復興よりも個人の生活、生産基盤の復活にお金を使った方が良い。政府には、個人の住宅や漁船など、個人財産の復活に税金を投入するべきではないという議論がある。この議論は正しいと筆者も思う。しかし、だからと言って、膨大な公共事業の無駄遣いをすることが許されるのだろうか。復興経費を何分の1かに削減することができれば、個人財産の復活の一部に税金を使うことも許されるのではないだろうか(大震災での復興コストの試算については原田泰『震災復興 欺瞞の構図』新潮新書、2012年、参照)。

 半壊以上の住宅被災者への支援がこれまでの300万円に加えて、今回、高齢者等のいる世帯にさらに300万円の支援が決定された。日本の地震対応策も少しは進歩しているようだ。しかし、失敗が検証されることはないので、進歩は遅い。

 阪神淡路大震災から学んだ塩崎教授の提言に従っていれば、東日本大震災の無駄遣いはなかった。したがって、東日本大震災での復興増税も必要なかったのである。

特集:令和6年能登半島地震の記事はこちら

   
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