2024年5月9日(木)

INTELLIGENCE MIND

2024年3月28日

 11月に入ると、NATOは対ソ軍事演習となる「エイブル・アーチャー83」を実施するが、これはソ連側には西側による戦争準備と映った。西側の軍事演習は定期的なものであったが、既にソ連は欧米諸国を信頼しておらず、外交関係も機能していなかったのである。ソ連国家保安委員会(KGB)は西側が核戦争の準備を進めているという前提で、欧州各支部に情報収集を命じていた。

ルップの潜伏と密告が
世界を救うカギに

 当時、英国秘密情報部(MI6)は、KGBのスパイ、オレグ・ゴルディエフスキーを味方につけており、そこからソ連首脳部が核戦争を意識しているという情報を得ていた。このゴルディエフスキーの情報によって、西側は状況が相当切迫していることを悟り、英国のサッチャー首相は、緊張緩和を意識するようになる。

 そして危機を打開するきっかけとなったのが、NATOに潜伏していたルップの存在であった。ヴォルフはルップに西側の真意を調べるように指示を下しており、ルップからはNATOでは対ソ戦を準備している兆候はない、という情報が寄せられた。この情報が東側を安堵させたと考えられる。こうして83年の核戦争の危機は回避され、その後、米ソは緊張緩和に向かい、最終的には冷戦が終結することになる。

 冷戦後、ルップはスパイ容疑で逮捕され、禁錮12年の有罪判決を受けたが、世界を救った英雄として、6年後には釈放されている。一方のヴォルフも冷戦後に有罪判決を受けているが、95年には取り消され無罪となった。旧東ドイツで監視社会を作り上げた秘密警察シュタージの評判はすこぶる悪いが、ヴォルフは別格のようで、旧東ドイツやロシアでは英雄視されているという。

   
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Wedge 2024年4月号より
小さくても生きられる 社会をつくる
小さくても生きられる 社会をつくる

全都道府県で人口が減少――。昨年7月の総務省による発表に衝撃が走った。特に地方においては、さらなる人口減少・高齢化は避けられない。高度経済成長期から半世紀。人口減少や財政難、激甚化する災害などに直面する令和において、さまざまな分野の「昭和型」システムを維持し続けることはもはや限界である。では、「令和型」にふさわしいあり方とは何か――。そのヒントを探るべく、小誌取材班は岩手、神奈川、岐阜、三重、滋賀、島根、熊本の7県を訪ね、先駆者たちの取り組みを取材し、「小さくても生きられる社会」を実現するにはどのようなことが必要なのかを探った。


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