2024年12月2日(月)

勝負の分かれ目

2024年3月26日

 大谷選手は、信頼していた水原氏の裏切りに対して、「僕はやっぱりおかしい、これはおかしいなと思って代理人と話したいということで代理人たちを呼んでそこで話し合いました」とすぐに対応を取ったという。急転直下の解任劇の舞台裏で、大谷選手が水原氏と2人だけの話し合いではなく、情報を代理人などと共有したことで事態が動いたということも判明した。その後、違法性の捜査については、警察当局に引き渡すということになっているということと、今後の対応も弁護士に任せるとしながら自らも警察当局に協力する姿勢も明確にした。

質疑応答をとらなかった理由

 メディア対応は通常、質疑応答の形式を取る記者会見、取材対象者を多くの記者が囲んで質問する囲み取材が取られることがある。質疑に応じない場合には、談話やコメントという形を取ることもある。

 今回、大谷選手は声明という形で質疑応答には応じなかったものの、自らの口で公の場で状況を可能な範囲で説明したといえる。

 ただ、質疑がなかったことで疑念が残ったのは、違法賭博の胴元に対し、水原氏がなぜ大谷選手の口座から送金できたのかという点である。

 大谷選手の代理人が主張するように「大規模な窃盗」が成立した背景には、高額年俸を手にする大谷選手の資産管理への甘さを指摘する声もあるだろうが、一方で、アクセス手段が違法は犯罪行為であれば、それを防ぐことまで管理能力として求めることは酷にもうつる。

 どういうプロセスで送金したのかは、捜査の過程でいずれ明らかになることである。大谷選手もこの点に関しては「現在進行中の調査もありますので、きょう話せることには限りがあるということを理解していただきたい」と述べている。

 もしも、会見形式で行われていれば、大谷選手と水原氏の具体的なやりとりなどの詳細がわかったかもしれないが、この時点で、最も重要なことは、大谷選手が今後のシーズンへ向け、あるいはオープン戦で出場を続ける中で、違法行為に対する「潔白」を明らかにすることであり、このことは声明から十分に伝わっている。この時点での説明責任を果たしたと言えるのではないだろうか。

「一平さん」と呼ぶ存在の〝過ち〟

 また、声明を出すにあたっては、ドジャースや代理人とも入念な打ち合わせが行われていたことは想像できる。大谷選手は冒頭で「信頼していた方」「彼」という言葉で水原氏を表現し、決別の意思を示していたように見えた。しかし、途中からは「一平さん」と名前で呼ぶ回数が増えていく。

 ここの部分は、自然と「一平さん」という表現を使っているように見え、大谷選手の人間性が表れていただろう。長年にわたって公私をサポートしてくれたと信頼を寄せてきた水原氏に対する複雑な心境が見て取れる場面であった。

 実際、会見の最初に「信頼していた方の過ちというものを悲しくというか、ショックですし、今はすごく感じています」と心情を明かし、一連の経緯を説明した後にメモを見ずに「正直ショックという言葉が正しいとは思わないですし、うーん、うまく言葉では表せないような感覚で、この1週間ぐらいはずっと過ごしてきたので、今はそれを言葉にするのは難しいなと思っています」と改めて困惑を口にした。

 これまで好意的な報道がほぼ全てだった大谷選手に関して、ここ数日は、沈黙することへの厳しい意見も出てきたが、大谷選手にとっては、発する言葉の影響力を鑑みても、状況をしっかりと把握するための時間は必要だったのではないか。捜査は今後も続くため、今回の声明を持って、完全な幕引きとはならないだろうが、メディアも今後の報道には憶測ではなく、声明を裏付けていく緻密な取材姿勢が求められていくことになるだろう。

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