さらに4月1日には日銀の4月短観(企業短期経済観測調査)の発表も予定されていた。仮に悪い結果が出たら政策変更のモメンタムが減速しかねないリスクを考慮したとも考えられる。実際、1日発表の4月短観は大企業製造業の景況感は4期ぶりに悪化した。
住宅ローンにすぐには影響せず
これまで世界的に見ても異例で長期にわたった金融政策を、短期金利の操作を主たる政策手段とする枠組みに移行する決断をしたことは意義があり、大きく報道されるのも理解できる。一方で、今回の日銀の政策変更を巡ってメディア、特にテレビのニュースは、住宅ローン金利の上昇や、利上げが市民生活に影響が出てくる懸念を多くの番組が指摘した。
確かに経済学の教科書的には、通常の金利の世界に戻るとそうした説明になるのかもしれないが、すぐに影響が出てくるかと問われれば話は別である。現実には無担保コールレート翌日物を0~0.1%に誘導するというまだまだ低い水準である。
メガバンクは日銀の政策変更にも余裕の構えを見せており、住宅ローンの変動金利の基準となる短期プライムレートを据え置いた。変動金利型の住宅ローン利用者には現在のところ大きな影響はないとみられる。
追加の利上げはあるのか
冷静に考えると17年ぶりの利上げという節目ではあるが、これまで異次元だった状態を普通の状態に戻したということである。金融関係者も「ここまで長くかかるとは思わなかった」と本音をもらす。目下、唯一気がかりなのは、足下で円安が進んでいる外国為替市場の動向だが、これには政府、日銀も敏感に反応しており、「あらゆる手段を排除しない」といった口先介入を続けている。
今後焦点となるのは、日銀の次の利上げのタイミングである。市場関係者の一部には、「年内にも日銀は追加利上げに踏み切るのではないか」という観測があるものの、一方で個人消費の力はまだ弱く、物価上昇に見合う賃金上昇が広がるには時間がかかるとの見方も根強い。
植田和男・日銀総裁自身も「緩和的な金融環境が当面続く」と説明しており、メガバンク幹部は「よほどのことがない限り、追加利上げは少なくとも向こう1年程度はないだろう」と予想する。元日銀審議委員で野村総合研究所エグゼクティブエコノミストの木内登英氏は、3月19日の決定会合当日執筆のレポートで「2025年前半までずれ込むと見ておきたい」と指摘した。その理由として、FRBの利下げ、インフレ率の低下、(米国をはじめとする)内外景気の軟化などが障害になると例示している。