真の正常化には長い道のり
今後の見通しについて、生活実感や経済の正しい現状認識を含めたキーワードは「一般への波及」になるのではないかと筆者は考える。物価上昇に負けない賃上げ効果の実感や、不正確な情報に惑わされない金融リテラシーが着実に広がるかどうかが課題になるだろう。
今回の政策決定は、個人消費がまだ十分な力強さを欠く中での利上げである。日本全体でみれば、一部大企業の従業員は賃上げの恩恵を受けるが、賃金がなかなか上がらない業種や中小企業もまだ多い。
一般の国民が実感するレベルまで景気回復が浸透していない中で、2年前の春から続いている円安に乗じて海外マネーが都心のマンションを高値で購入し、価格が高騰する対照的な動きも見られる。これは、持てる者と持たざる者の格差が大きくなったバブル期の後味の悪いデジャブ(既視感)を想起させる。
それゆえに実質賃金の上昇による暮らし向き好転の実感や、住宅ローン金利を見直す時などに参考になるような情報を一般レベルまで適切に広く波及させてゆくことが重要になる。金融政策の正常化とはこうした部分までを含むものであり、政府・日銀は十分に時間をかけてゆっくりと進める必要があるだろう。マラソンで言えばようやくスタートラインに立ったところであり、まさにこれから真の正常化に向けた長い道のりが始まるのである。
特集「どうなる?金利と経済」の記事はこちら。