2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2024年4月9日

 この消費の増加は、再び生産と雇用の増加につながり、国民所得がさらに増加するという流れが生まれます。当初の公共投資額を上回る需要の増加、そして所得、生産の増加が生じるということです。

 このような財政政策による効果を表す指標が「財政乗数」と呼ばれるものです。財政乗数は、政府支出の増加や減税などの政府の活動が、どれだけGDPの変化をもたらすのかを表します。財政乗数は、GDPの変化量を政府支出や税金の変化量で割ることで求めることができます。

1990年代の半分ほどとなった財政乗数

 財政乗数は、乗数効果がなければ政府支出の増加はその分だけ国民所得を増やすので、その値は1となります。しかし、乗数効果がある場合は、政府支出の増加がそれ以上の需要を生み出すため、国民所得は政府支出の増加分よりも増えることになり、財政乗数は1よりも大きくなります。

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 これが、財政政策が景気対策として推奨される理由となっています。ただし、財政政策には副作用などもあるため、財政乗数が1を下回ることもあります。

 では、財政乗数の値はどの程度なのでしょうか? 財政乗数の推定は、長年にわたって多くの研究者たちによって研究や議論が行われてきました。財政乗数の推定には、いくつかのアプローチがありますが、ここでは、内閣府経済社会総合研究所が作成した計量モデルによる公共投資の財政乗数の値を見てみましょう。

 2018年の計量モデルによると、名目公共投資をGDPの1%増加させた場合、1年目の名目GDPは1.13%増加します。これは、1兆円の公共投資を行うと、名目GDPが1兆1300億円増えることを意味し、財政乗数は1.13となります。

 ここで注目すべきは、日本の財政乗数が長期的に低下しているということです。財政乗数は計量モデルの枠組みによって異なるため、比較には注意が必要ですが、過去の内閣府のマクロ計量モデルによると、1990年代前半には1.2~1.3程度だった財政乗数が、現在は、1.13と以前より低くなっています。また、カリフォルニア大学バークレー校のオーエルバッハ教授とゴロドニチェンコ教授による研究によれば、日本の財政乗数が顕著に低下していることが示されています。


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