2024年12月14日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年4月11日

 今のところ、ドイツ政府が抑止の取り決めを目に見える形で変更する状況にはない。重要なことは、ドイツ国民の90%がドイツ自身の核を保有するとの考えを否定していることである。

 70年近く、ドイツは安全保障を米国の核抑止の供与に依存してきた。トランプが欧州から米国の核兵器を引き上げた場合、その伝統から断絶し、核抑止を除いてしまうというのは現実的とは言いがたい。むしろ、ドイツはフランスと英国が欧州の安全保障に資するように核のコミットメントを増大するように探っていくだろう。

 一方、もしも、それが効を奏さない場合、ドイツは自らの安全保障を確保するために難しい選択に直面する。近年のドイツにおける核兵器議論は、ドイツ政治における限界線を動かし、徐々に核に接近してきている。

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東アジアと欧州の対比

 この論説の筆者であるクーンは、核軍縮・軍備管理、核の抑制の重要性を論じてきたドイツの専門家である。

 米国の核抑止への不安から、これに代わる代替的な核抑止を考えるべきかという問題設定から欧州と東アジアを対比すると、両者には多くの共通点がある。

 ①大国間競争の時代となって、安全保障環境が悪化し、核兵器が果たす役割が大きくなってきていること、②戦後の国際秩序を支えてきた米国が国力の衰えや国論の分裂によって、国際的な責任を担っていく意思にも能力にも衰えが見え、拡大抑止のコミットメントに不安が生じていること、③ロシア、中国、イラン、北朝鮮といった国家が現状変更勢力として互いの連携を強めていること等である。こうした諸点は、欧州にしても東アジアについても共通して言えることである。

 他方、欧州と東アジアでは相違点もある。最大の相違は、欧州においてはロシア・ウクライナ戦争という第二次世界大戦以来の戦争がすでに勃発していることである。東アジアは、台湾海峡、朝鮮半島、南シナ海、東シナ海と発火点は多いが、現時点ではまだ戦争の勃発という発火には至っていない。

 地理的な条件も異なっている。欧州はロシアと地続きであり、しかも、平坦な平原で繋がっている。だからこそ、第二次世界大戦の独ソ戦は空前の戦車戦となった。ロシアと戦争となれば、地上戦を戦わなければならない。一方、東アジアは、朝鮮半島は地続きであるが、台湾海峡にしても、南シナ海や東シナ海にしても、さらに日本有事を考えても、いずれも海と空の戦いが主軸となる。


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