2024年12月2日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年4月11日

 相違点の中でも、東アジアの方が事情が複雑な点としては、欧州においては、脅威の源としてロシアだけを考えれば良いが、東アジアはそうではない。東アジアでは、中国も、北朝鮮も、ロシアも念頭に置く必要がある。

米国の力も限られている

 もう一つ別の視角から欧州と東アジアを見ると、米国との関係で両者は競合してしまう場合があるということだ。世界中で紛争や懸案は増大している一方、米国が動員できる安全保障上の資源には限界がある。こうした状況で、米国には異なった立場が存在する。国際的なコミットメントから手を引き国内回帰を進めるべきとの孤立主義の立場もあれば、主敵を中国と定めて東アジアに資源を集中させるべきとの論者もいる。

 今後、米国の対外政策がどのような政治指導者により展開されることになるか、それをどのようなスタッフがサポートするのかは分からないが、資源の制約の中、欧州、東アジア、中東など複数の地域にどのように資源を分配するのが良いのかの競合関係は、どのような政権であっても、直面することとなる問題である。

 欧州における代替的な核抑止の議論は、簡単には決着せず、長く続く議論になると思われる。クーンの論説が指摘する通り、代替策を考えるとしても、当面、検討の俎上に上がるのは、仏英の核戦力に基づく欧州版の抑止の活用であろう。

 NATOの核共有の仕組みで米国の核が配置されていることについてのドイツ国民の見方は肯定的なものに変化しているものの、ドイツ国民の90%がドイツ自身の核を保有するとの考えを否定している状況とのことである。一方、仏英の核戦力に基づく欧州版の抑止がうまく構築されない時のことは見通せない。

 日本としては、上記のさまざまな観点を踏まえて、欧州の議論の展開を注視するとともに、日本としての最善の方策を考えていくことが必要である。

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