ドイツの核問題専門家のウルリッヒ・クーンが、2024年3月15日付のBulletin of the Atomic Scientists誌(Web版)に、ドイツにおいて、米国の核抑止への不安から、これに代わる核抑止の議論が活発化していることについての論説を寄稿している。
ドイツで再び核抑止が議論されている。今や、米国の共和党大統領候補となったトランプが、北大西洋条約機構(NATO)同盟国が攻撃を受けても防衛しないといった脅しを気軽に口にする中、ドイツとしては、核兵器を含めて抑止の代替案を考えなければならない状況である。
ロシアの侵略の際、もし米国が欧州を見捨てたらどうするのか。この問いに対して、三つの答えが提起されている。
一番目は仏英の核戦力に基づく欧州版の抑止。二番目は安全保障面でフランスから強い保証を得る見返りとしてドイツがフランスの核打撃力に対して資金供与を行うこと。三番目はドイツが核爆弾を保有することである。
現在ドイツで起こっている核についての議論は、過去のものと幾つかの点で異なっている。第一に、欧州の安全保障環境が、米国から見捨てられ、ロシアに攻められるという状況に近いものとなっているところで起こっていることである。懸念はドイツだけのものではない。
第二に、以前のドイツの核議論は、専門家、ジャーナリスト、主流以外の政治家によるものであったが、今は、キリスト教民主同盟(CDU)、社民党、緑の党、自由民主党といった各党の大物政治家が抑止の代替案の議論に加わっている。
第三に、冷戦後のドイツの外交・安全保障政策の中心軸であった核軍縮は今やあまり議論の対象となっていない。
第四に、ドイツのメディアの議論を支配しているのは、タカ派の言説である。抑制的な対応を唱えると、恐露派の弱腰と見なされてしまう。
こうした新たな状況の背景にあるのは、世論の変化である。22年に行われた世論調査では、数十年で初めてドイツ領内に米国の核兵器が置かれていることを歓迎するという者が過半数を占めた。