中国在住の知人の声やSNSの意見などを総合すると、背景にあるのは、やはりコロナ禍の影響だ。コロナ禍の3年以上、中国でも人々は抑圧された生活を送ってきた。前述のようにゼロコロナ政策が実施されていたので、3年間、田舎に帰省できなかった人も多い。それどころか、ロックダウンされた都市では、日常生活さえままならず、不自由な生活を強いられた。
そうしたことから、2月の春節、5月のゴールデンウィークに遠出する人も増え始めたが、コロナ後、長期の休暇となるのは、この夏休みが初めてだ。子どもも一緒に長期の旅行に行けるため、これだけ多くの人々が各地に繰り出したのではないか、と思われる。
上海在住の別の知人は言う。
「長い間どこにも行くことができなかったので、ストレスを発散したいと思っている人がとても多い。どこでもいいから、どこかに旅行に行ってリフレッシュしたり、充電したりしたいと思っているのです」
観光の形態も変化
また、コロナ禍で、中国人の消費意識、お金の使い方が変化してきたことも関係している、とこの知人は指摘する。
「コロナ禍によって、人生にはいつ、どんなアクシデントが起きるか、一寸先はわからない、という心境になった人が多い。これまでは、お金があれば不動産を買いたい、もっとお金儲けしたい、贅沢したいと思っていた人も、消費意識が変わってきた。人生をより豊かにすること、今この瞬間を楽しむことに投資したいと思うようになった。そのひとつが旅行です。まだビザ取得などの関係で、海外旅行に行くことには躊躇している人でも、国内旅行を楽しみたいという気持ちに変化しているのだと思います」
筆者は調べていくうちに、いま、旅行客の間で流行っている言葉に「穷游」(チオンヨウ=安い旅行)という流行語があることを知った。安い公共交通機関を使って移動し、その土地ならではの豪勢ではない郷土料理を食べ、質素な民宿に泊まって、お金をかけずに工夫して遊ぶこと、という意味だ。
実際は、旅行客があまりにも多すぎて民宿でも宿泊費が高騰するという現象が起きているが、それでも、出発時期をずらすなどして、できるだけ安い旅行をしようという人が増えている。
これまでは見栄を張り、高級ホテルに泊まって、ブランドものを買い漁るという人が多かったが、次第に「穷游」に変わりつつあるという話に、筆者はコロナ禍を経たことで、彼らの意識に大きな変化が起きていると感じた。日本では外国人観光客が増えることによって、オーバーツーリズム問題が深刻化しているが、隣国・中国ではまた違った状況が起きているのだということに、改めて気づかされた。