ウクライナの敗北の地政学的な影響は和平合意の形に依存するであろう。翻って、それは軍事の力学にかかって来る。もし、弾薬不足のウクライナ軍が崩壊し、ロシアが東部だけでなくベラルーシ型の傀儡政権の下で国全体を支配するならば、ロシアはEUと追加的に1000キロメートルを超える国境を接することになる。
EUの将来の形は変わるであろう。ウクライナへのEU拡大の約束は包括的な勝利を前提としていた。西バルカン諸国のEU加盟申請も放置されることとなろう。
罪と恥の感情を超えて、恐怖が欧州に浸透するであろう。更なる攻撃があれば、それはNATO加盟国に対するもので同盟国の行動を強いるものか。
プーチンはバルト三国におけるナチズムに言及し、ウクライナ侵攻の際に用いた口実を繰り返したことがある。もしロシアが勝利すれば、プーチンは戦闘で鍛えられ領土を奪取する21世紀型の戦闘技術を備えた唯一の戦闘集団を指揮することとなろう。
たとえウクライナが勝つにしても、欧州は変わる必要がある。NATOは今月75周年を祝うが、欧州がその領土の一体性の米国による保証のよすがとするNATOの将来は不確かである。冷戦後の平和の配当の収穫の数十年を経て、より大きな国防費が必要となる。
「もし、ウクライナが負ければどうなる?」という問題に対する欧州の答えは依然単純である――「ウクライナは負けてはならない」というのが答えである。
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欧州はすでにロシアに備える時
ウクライナ戦争は、ウクライナの負けと決まった訳ではないが、このまま推移すれば、ロシアを22年2月24日の線まで押し戻すというウクライナの半分ほどの勝利も覚束ない。仮に、ウクライナが負ける場合、何が起きるかを考えておくことは必要で有益である。その場合、欧州を支配するのは屈辱と恐怖であろう。
欧州は結束して行動した。ロシアの戦闘能力を削ぐべく累次の制裁によりロシアに懲罰を課し、ウクライナの自衛努力を助けるべく軍事的・財政的に多大の支援を提供している。けれども、欧州は、ウクライナの戦場で鍛えられ21世紀型の戦い方を習得したロシア軍の脅威に向き合うことになる。
仮に、ロシアとの和平合意に持ち込めたとしても、それは幻想の安全を提供するに過ぎず、欧州はロシアがNATO領域、特に、バルト三国など東部領域に次なる侵略を企てる脅威への対処を迫られるであろう。加えて、核を含む米国の拡大抑止の信頼性が、ドナルド・トランプの言動によって揺らいでおり、それが欧州の不安を煽っている。
重要なことは、ウクライナの命運がこの先どう決するかにかかわらず、欧州が防衛努力を各段に強化し、ロシアに備えることであり、7月のワシントンにおけるNATO首脳会議はそのための重要な機会となろう。