佐野家の最低生活費は月額27万円
物語の重要なテーマのひとつが、生活保護制度である。名前は聞いたことがあるものの、制度の詳細まで知らない人もいるだろう。ここでは物語を理解するための補助線として、制度のあらましを紹介しよう。
生活保護を利用している佐野家は、精神疾患の母、中学生の樹希、5つになる妹の3人世帯である。生活保護は世帯単位で利用するので、佐野家もこの3人で必要なる費用(最低生活費)を計算することになる。
仮に東京都新宿区に住んでいたと仮定すると、佐野家の最低生活費はざっと月額27万円になる(表1)。
内訳は、個人ごとの生活費(第1類)をあわせたものが10万、水光熱費などの共用費(第2類)が5万弱、これに母子加算や児童養育加算、アパートの家賃や樹希の中学校の教材費が加わる。医療費は自己負担なしにかかることができる。
このほか、母の通院費や樹希のクラブ活動費など、個別の事情に応じて別途支給対象となるものもある。
地域や年齢が変われば金額も変動する。そのほかにも、最低生活費の金額は時期や世帯状況によって細かく計算が変わるため、あくまで概算であると理解していただきたい。
生活保護と他の制度は組み合わせることができる
ただし、この金額がそのまま支払われる訳ではない。生活保護には「補足性の原理」(生活保護法第4条)があり、他に使える制度や収入があれば、そちらを優先したうえで不足分が生活保護費として支給される(図1)。「足りない部分をおぎなう」のが生活保護の基本的な考え方である。
誤解されがちだが、「年金があるから」「仕事による収入があるから」という理由だけで生活保護の対象から外れることはない。年金や仕事による収入を合算しても最低生活費に満たなければ、生活保護の対象となる。なお、多額の貯金や換金性の高い株券などを持っている場合は、まずそちらを生活に充てる必要がある。
佐野家の場合は、父が事故で亡くなっているので遺族年金が支給されている可能性がある。ひとり親家庭なので児童扶養手当、子どもがいるので児童手当も対象になるだろう。
樹希が高校生になってアルバイトをはじめれば、その収入も原則は収入として認定される。ただし全額が収入認定されるのではなく、基礎控除や未成年者控除など収入の一部を手元に残すしくみがある。さらに、高校生には優遇制度があり、うまく制度を活用すればアルバイト収入はほとんどすべて手元に残すことができる。