ヤングケアラー、生活保護、教育虐待、学国籍の子ども、精神障害、引きこもり……。深刻な社会問題を扱った児童文学『むこう岸』(講談社)が実写ドラマ化された。差別や偏見が色濃く残る貧困問題において、日本ではどのような制度が使えるのか。社会保障制度の研究者が、ドラマに登場する制度をわかりやすく解説する。
差別や偏見に正面から挑んだ意欲作
特集ドラマ『むこう岸』は、2024年5月6日、ゴールデンウイークの最終日、夜9時30分から10時43分の時間帯にNHKにより放映された。安田夏菜氏の原作は、第59回児童文学者協会賞、貧困ジャーナリズム対象2019特別賞を受賞している。貧困問題に取り組む関係者の間では、以前から期待の声が寄せられていた。
ドラマの中心となるのは3人の少年少女である。主人公の一人である山之内和真は有名進学校で落ちこぼれ、中学3年生で公立中学に転校する。
そこで出会ったのは、母と妹と3人、生活保護を利用して暮らしている佐野樹希だった。「有名私立中学で落ちこぼれた」という秘密を守る代わりに命じられたのは、樹希を慕う口のきけない少年・アベルに勉強を教えることだった。
『カフェ・居場所』で顔を合わせながら、お互いの環境を理解できないものとして疎ましく思う二人だったが、「貧しさゆえに機会を奪われる」ことの不条理に、できることを模索していく。
樹希の母親はパニック障害で家事もできず、家に引きこもっている。樹希は幼い妹の世話や家事などを一手に引き受けるヤングケアラーである。生活保護を利用していることをクラスメートに知られ、尊厳を傷つける「いじめ」を受ける。
一方の和真は、進学校での勉強についていけず、公立校に転校。「逆境に負けるな」と励まし続ける父親に、徐々に精神的に追い詰められていく。
もう一人の主人公、アベルは一見して外国籍とわかる風貌をしている。父親からの虐待の影響で話すことができないアベルは、筆談でコミュニケーションを取っていく。
ヤングケアラー、生活保護、教育虐待、外国籍の子ども、精神疾患、引きこもり……。現在の社会問題がこれでもかと詰め込まれた『むこう岸』は、実は大人に向けた書かれたものではない。和真や樹希のような少年少女を対象とした児童文学である。ドラマもまた、少年少女に届けることを意識したつくりになっている。
エンターテイメントとしての質の高さはもちろんのこと、作品は「社会保障の入門教材」としても質の高いものとなっている。副教材的な位置づけとして、ドラマに登場する社会保障制度の解説を試みることにしたい。