オトナの教養 週末の一冊

2013年12月2日

»著者プロフィール
著者
閉じる

東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

 <その間、私の授業の根底にあったものは、普段なにげなく使っている体の部分の名称や、器官や臓器を表す「言葉の意味」と「新知見が得られるまでの経過が知りたい」という気持ち、すなわち、この人はどのように考えて、この実験に踏み切り、結果をどう解釈したのか、というストーリーを明らかにすることであった。(中略)>

 <それらにこだわったのは、ヒトの体の機能や生理を理解する上で、これらを知ると役に立つことが多いからである。>

「舌を噛んで死ねるのか?」
「逆立ちしたまま牛乳が飲めるか」

 40年間の講義がもとになっているだけに、情報の深さや広さもさることながら、いかに学生に関心を持ってもらえるかを考え、語り口を練り上げてあるのには、脱帽する。

 たとえば、消化管の章。「はらわたって何?」という小見出しから始まり、杉田玄白の「腑分け」のエピソードが語られる。

 続く、「いろいろ働く口」の項では、「唇が赤いのは霊長類の中でもヒトだけである。ヒトの口の中が、すでに赤い。口腔粘膜という。これが外側にめくれたのが唇である。赤いのは毛細血管が豊富に分布しているからで、水を含めた栄養物の吸収を役割とする消化管の機能がすでにここから始まる」と語り出す。

 ここから男女のくちづけの意味合いまで、読者を引き込みつつ、話が小気味よく進んで、実にうまい。

 舌の話に及ぶと、「舌を噛んで死ねるのか?」という質問を学生からよく受ける、として、その問いにさらりと答える。

 続いて、食道。「逆立ちしたまま牛乳が飲めるか」の小見出しで、刀を飲み込む大道芸人やビール早飲み競争のチャンピオンは食道を開けている、という興味深い話から始まり、小見出しの答えにいたる。

 講談か落語のように軽妙な語り口で、歯切れよく、無駄がない。どこから読んでもとっつきやすく、情報量豊富なので、出張途中や眠りにつく前のわずかな時間に、ぱっと開いたところを楽しめる。

関連記事

新着記事

»もっと見る