ウクライナの同盟国は領土を安全と交換するようウクライナに強く求めるかも知れないが、ウクライナとロシアの双方を満足させる合意は見通し難い。いずれか一方が諦めるかも知れないが、その兆候はいまだない。
西側の目標は、防御可能な国境の中の安定し安全で繁栄し、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)加盟に向けて前進するウクライナである。ワシントンにおける激しい争いは、欧州の指導者は、この目標の実現のためにはより多くの負担を背負う必要があり、より大きな防衛産業を必要とするとの警告を意味する。
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ウクライナが選択すべき戦略
甚だしく遅延したが米国議会下院がようやく承認するに至ったウクライナ支援は、この社説が言うように一時的な猶予を与えるものに過ぎないかも知れないが、劣勢に立たされているウクライナがロシアの攻勢に耐えて生き残る上で、決定的な重要性を有することに疑いはない。長期の逡巡の期間を要したが、下院議長ジョンソンが意を決して行動し、超党派の多数をもって支援法案を成立させたことは高く評価されるべきである。下院民主党院内総務ジェフリーズも「ジョンソン率いる伝統的な保守は難局に臨んで行動した」と評価している。
重要なことは、ウクライナが新たに到着する武器弾薬をどのように賢明に使うかにある。この夏にもロシアの大規模攻勢が予想されているが、ウクライナが新たに到着する砲弾、迎撃ミサイル、装甲車両などをもってロシアの攻勢を凌ぎ、時間を稼ぎ、その間に兵の補充と訓練を急ぎ、塹壕と地雷原を含む防御線を強固なものとすることを米国は期待しているようである。
少なくとも2025年まではウクライナが反撃を仕掛ける態勢を整え得る状況にはなく、当面、ウクライナが選択すべき戦略は、この社説も指摘するように、防御を強固にすることによる現状維持である。
もちろん、この間にあっても、ウクライナはロシアの脆弱な部分に対する攻撃を継続し、ロシア軍の損耗と戦闘能力の阻害を狙った努力を継続することとなろう。クリミア周辺におけるロシア黒海艦隊に対する攻撃(ウクライナの穀物輸出のための黒海の航路帯が確保されている)、あるいはロシア領内の製油所を標的とするドローン攻撃などだ。
今後、米国は新たに射程300キロの長距離地対地ミサイルATACM-300を供与することになるが(かねてウクライナが強く欲していたミサイルで、既に3月に若干数が秘密裡に提供されていた)、このミサイルにはクリミアの航空基地や補給施設、あるいはケルチ橋など、前線の背後奥深くの目標を標的とする能力があり、戦場に変化をもたらし得るかも知れない。