2024年11月22日(金)

プーチンのロシア

2024年5月28日

 モルドバの一般国民も、すでに4分の1がルーマニアとの二重国籍となっているなど、長兄国であるルーマニアはごく身近な存在だ。ロシア軍が攻め入ってきた際に、多くの国民は、かりそめの祖国であるモルドバを死守するというよりも、我先にとルーマニアに逃げるのではないか。

 ルーマニアに逃れてさえしまえば、その日からEU市民としての生活をスタートさせられる。モルドバに残って戦うという選択肢は、絶対的なものではあるまい。

10月の大統領選と国民投票の行方

 モルドバでは今年10月20日に大統領選挙が実施される。各種世論調査によれば、現職で親欧米派のサンドゥ大統領が30%前後の支持を集めており、主な政治家の中でトップに立っている。また、さまざまな組み合わせの決選投票について尋ねても、サンドゥ氏の方が優勢である。現時点で、サンドゥ大統領が次期大統領の座の最短距離につけていることは間違いなさそうだ。

 また、サンドゥ政権はかねてから、10月20日の大統領選と同日に、EU加盟の是非を問う国民投票の実施を検討しており、5月16日にモルドバ議会が正式に国民投票実施を決定した。可決されれば、EU加盟がモルドバの戦略的目標である旨が憲法に明記されることとなる。

 こうして見ると、親欧米路線のサンドゥ政権が継続し、その下でEU加盟路線にも大いに弾みがつくという未来を想像したくなる。しかし、経済難、汚職対策の遅れなどで国民の不満が高まっていることに加え、以下のような不安材料もある。

 まず、くだんのEU国民投票が物議を醸しており、親欧米派の間でも批判的な声がある。昨年暮れ、EUがモルドバとの加盟交渉の開始を決めたことは事実だが、国民投票を実施するにしても普通は交渉が妥結した時点で行うべきものであり、これから交渉という現時点での国民投票は手順として誤りだという指摘がある。

 また、今日のモルドバではEU加盟論の方が優勢ではあるが、そこまで絶対的な優位ではないので、もしも国民投票の投票率や賛成率が思うように高まらないと、欧州統合路線にかえって傷がつきかねないという声も聞かれる。

 こうした問題にもかかわらず、サンドゥ氏が国民投票を強行しようとするのは、それを大統領選と同日に実施することで、自らの得票を増やすための策略であるとして、他陣営から批判の声があがっているわけである。

 他方、親ロシア派の諸政党の力は侮れず、しかもクレムリンがテコ入れしようと手ぐすねを引いている。現在ロシアに亡命している富豪ショール氏が、4月にモスクワで「パベーダ(勝利)」という新たな野党ブロックの設立会合を開いたのは、とりわけ不気味な動きだ。もし仮に、これにドドン前大統領やキク元首相などが合流し、中道および左派の広範な連合が成立したら、サンドゥ現大統領とて苦戦は免れまい。

 もう一つ、重要なポイントは、モルドバの政治体制である。モルドバは、公選大統領こそ存在するものの、議会と内閣の権限が大きい。今年の選挙でサンドゥ大統領が再選を果たしたとしても、来年夏に予定されている議会選挙で大統領与党「行動・連帯党」が負ければ、サンドゥ大統領はお飾りの国家元首になりかねない。そして、サンドゥ当選の余勢を駆って行動・連帯党が快勝した2021年議会選と異なり、来年の議会選は与党にとり厳しい戦いになると予想される。


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