2024年6月29日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年5月28日

 問題は、次期米大統領がトランプかバイデンか、あるいは、次期メキシコ大統領として有力視されるシェインバウムがどれほど対米関係に柔軟に取り組むのかといったことに依存しており、また、中国がどこまでアグレッシブに出てくるかにもよるであろう。電気自動車(EV)の対米輸出の問題とメキシコにおけるデジタル等先端分野への中国企業の進出が米国の安全保障上の利益を脅かす2つの問題を分けて考えるべきであろう。

 EVについては、BYD等のメキシコ投資はメキシコ市場をターゲットにしており、あるいは、他のラテンアメリカ諸国やEUへの輸出もあり得ようが、当面対米輸出を自主規制すれば、問題の先鋭化は避けられるであろう。他方、デジタル等先端分野への投資は、既にファーウェイ等がメキシコ市場に根を張っており、人民解放軍と密接な関係を持つ企業も進出しているようで、そのような企業が隣国の先端分野を牛耳ることについての米国の懸念も理解できる。

WTO/GATT体制下ではない中国への対策を

 メキシコは、USMCAにより米国の最大の貿易パートナーとなり、メキシコの北米へのコミットメントは左派イデオロギーよりも現実の利益を保証するものである。シェインバウムが大統領となってもその辺のバランスをとることが期待されるが、「もしトラ」となって、トランプがこの問題に感情的に対応したりすると、衝突コースの可能性も排除されないであろう。

 メキシコにとって、移民の抑制、USMCA見直し、フェンタニル原材料の規制といった問題は、バイデンであれば対米外交のレバレッジとして使えるであろうが、トランプの場合には対応を予測することが難しいように思う。

 なお、この問題は、現在のWTO/GATT体制の欠陥を如実に示している。問題の根源は、中国が莫大な国家補助や過剰生産により低価格での商品供給を行っていること、すなわち中国がWTO/GATT体制が前提としている民間企業の自由競争モデルではない国家介入の経済モデルに基づく貿易・投資を行っていることにある。

 WTO/GATT体制がそれを許容するのであれば、いずれにせよ中国の一人勝ちとなり、WTO/GATT体制では問題を解決できず、国家介入による貿易・投資政策を推進する国と民間企業の自由競争を原則とする国の間での、貿易や投資をめぐるルールはどうあるべきか改めて検討すべき時が来ているように思われる。

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