2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年6月6日

プーチンが懸念した二つの発言

 上記の記事は、ロシアのプーチン大統領が戦術核兵器を用いた演習を予告したことの背景を考察したものである。

 この解説記事で述べられているとおり、この演習の予告は、西側に対する「シグナル」であって、ロシアが戦術核兵器を実際に戦場で使用していることの兆候を示すものではない。ロシアがウクライナで戦術核兵器を使用することがあるとすれば、それは、ロシアが戦局を一挙に転換する必要性を感じる程度まで追い込まれた場合であろうと推測されるが(戦術核兵器を用いれば戦局の転換が実現できるかは別問題である)、現在、そのような地合いにあるわけでもない。

 一方、こうした「シグナル」がなされたことの背景を考えてみると、ロシアとして、西欧諸国がウクライナへの軍事支援をステップアップすることを阻止しようとする真剣さが伝わってくる。ロシア側が念頭に置いているとして言及があるのは、フランスのマクロン大統領が2月末以来述べているウクライナへの部隊派遣の可能性を示唆する発言、英国のキャメロン外相がウクライナに供与した武器の使途に制限を加えないとの発言の二つである。

 マクロンが言及したウクライナへの部隊派遣が短期的に実現の方向に向かうとは考え難いし、キャメロンが述べた「ウクライナは供与された武器をどう使うか決める権利がある」との発言が、どの程度熟考された上でなされたものなのかも疑問の余地がある。

 一方、それらの発言はプーチンの神経に障り、警告を発する必要性を感じさせたものもあったのであろう。つまり、今回の演習予告は、西側諸国のロシア・ウクライナ戦争への関与をどの程度で抑えるかの神経戦であると考えられる。

 そうは言っても、今回のロシアの動きは、ロシアなりのエスカレーション・コントロールの措置であり、いかに核兵器がロシア・ウクライナ戦争の多様な側面に関わっているかを改めて示すことになった。核兵器が実際に戦場で使用されないとしても、核兵器国との戦争は「核の影」の下で戦われるものとなることを覚悟する必要があるということである。

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