山城国と丹後国に根ざす知られざる古社たち
京都市街地を含む現在の京都府南東部は、明治維新以前は山城(山代、山背)国と呼ばれたが、目をこの山城国全般に向けるなら、平安遷都以前に歴史をさかのぼる「京都古社」の数はぐっと多くなる。とくに南部に多い。
たとえば、賀茂信仰のルーツのひとつに挙げられる木津川べりの岡田鴨神社や、やはり木津川沿いにあって、「居籠(いごもり)祭」という原始神道の面影を残すユニークな祭礼を伝える祝園(ほうその)神社などがそうだ。
また、京都南郊の宇治といえば、何といっても国宝の鳳凰堂がある平等院が有名だが、宇治川をはさんだ平等院の対岸には、応神・仁徳天皇の時代にルーツをもつ古社、宇治神社と宇治上神社が鎮座している。平安時代後期の建造とされる宇治上神社の本殿は、神社建築物としては現存最古のもので、鎌倉時代建造の拝殿とともに国宝に指定されている。
山城南部にこのような由緒ある古社が意外に多いのは、奈良時代までは北部(現在の京都市街地)ではなく、こちらが山城国の中心であったことが関係している。ちなみに、ほんの数年間だが、奈良時代には岡田鴨神社の近くに聖武天皇によって恭仁宮が営まれ、日本の都が平城京からここへ遷されていたこともあった。
また、京都府北部は古くは丹後国に属した地域だが、ここにも、平安遷都以前からの古い歴史を誇る神社は多い。浦島太郎伝説の原郷である浦嶋神社、伊勢神宮の元宮とする伝承のある皇大(こうたい)神社や豊受(とようけ)大神社、籠(この)神社……。これらの古社は、『古事記』や『日本書紀』などともつながる豊潤な神話や伝説を伝えているところも大きな魅力だ。
日本の古層を知るもうひとつの京都巡り
これら「京都古社」の多くは京都の混雑エリアの外にあり、さほど観光名所化していない。したがって、ハイシーズンであっても、オーバーツーリズムに惑わされずに、自分のペースで参拝し、じっくりと旅をたのしむことができる。
しかも、これらの神社はいずれも京都の古層を形成してきた神社であり、平安遷都後の京都は、これらを土台にして発展をつづけたと言っても過言ではない。そして、京都の歴史は日本の歴史の真髄でもある。その意味では、京都古社は日本そのものの古層を形成してきたとも言えよう。
埋もれた京都の歴史に目を向け、古都郊外の山野にこだまする神々の声に耳を傾ける。そろそろ、そんなスローな京都旅に出かけてみてはいかがだろうか。