2024年7月1日(月)

BBC News

2024年6月29日

クリス・ヘイズ、ホリー・ホンデリッチ、レイチェル・ルッカー BBCニュース

ジョー・バイデン米大統領が窮地に立たされている。ドナルド・トランプ前大統領との討論会での様子がひどく不評だからだ。

民主党関係者はBBCに、党内がパニック状態で大混乱していると明らかにした。81歳の大統領は、選挙から撤退すべきかどうかが議論されているという。

米紙ニューヨーク・タイムズの社説は、アメリカのリベラル派の心臓部分そのものだ。そしてその社説は28日、今のバイデン氏はかつてに比べると見る影もなく、もはや身を引くべきだと主張した。

けれども、バイデン氏は現時点で撤退できるのだろうか。その場合、何がどうなるのか。そして、誰が代わりになり得るのか。

端的に言うと、本人が身を引くと同意しない限り、難しい。そして、非常に厄介な事態になるおそれがある。

どういう展開があり得るか、検討してみる。

バイデン氏は撤退できるか?

できる。そして、もしも(この「もしも」は強調する必要がある)、バイデン氏が引退することになれば、別の候補者を探すのは比較的簡単なはずだ。

民主党が大統領選の候補を正式に決めるのは、8月19〜22日にシカゴで開催される民主党全国大会だ。

オハイオ州の投票証明期限に間に合わせるため、民主党は今回、シカゴに集まる前に、バイデン氏とカマラ・ハリス副大統領をオンラインで指名する予定にしている。

その指名を受けて候補者は、党の「代議員」(正式に候補者を選ぶ党役員)の過半数の支持を得る必要がある。代議員は、各州の予備選挙の結果に基づき、候補者に比例配分される。

今年の予備選でバイデン氏は、全代議員約4000人のほぼ99%を獲得した。

民主党全国委員会(DNC)の規則では、バイデン氏が予備選で獲得した代議員たちはバイデン氏を支持すると「誓約」している。

そのバイデン氏が自ら降板した場合、代議員たちは「誓約」から解放され、だれを支持しても構わないということになり得る。

その場合、党大会は「オープン・コンベンション」と呼ばれるものになる。従来のように予備選を経てすでに指名が決まっている候補者にお墨付きを与えるだけではなく、実際に党大会の場で、複数の候補者について代議員が議論し、1人の候補が過半数を獲得するまで投票を続けるという仕組みだ。

このような事態になれば、指名を争う民主党関係者が激烈に競い合う可能性がある。

バイデン氏は今のところ、撤退を検討するようなそぶりは見せていない。

しかし、もし選挙から降りることになれば、「まったく別の問題が出てくる」と政治史を研究するリア・ライト・リグール氏はBBCニュースに話した。

「もしも別の候補を立てるなら、身を引くための交渉の中で、後任を誰にするか最終的な決定権をバイデン氏は要求すると思う」

追い出される可能性は

この展開はさらにあり得ない。そして、もし本人が撤退したくないなら、ここから先が本当に厄介になる。

現代のアメリカ政治において、予備選で勝った候補者から本人の意向に反して候補指名を取り上げるなど、主要政党が行ったことはない。そして、民主党が真剣にそのようなまねを計画している様子もない。

ただし、DNCの規則にはいくつかの抜け穴があり、理論的にはバイデン氏を追い出すことができる。

規則では、代議員は「自らを選んだ人々の思いを反映し、誠実に」行動することが認められている。

その場合は、「ひどく醜い争いにつながりかねない」と、ライト・リグール氏は言う。

党の代議員がそのような反乱を起こすとは思えないと、複数の専門家はBBCに話している。

しかし、DNCは党則をいつでも変更できる。

ライト・リグール氏は、かつて1968年に当時のリンドン・B・ジョンソン大統領が再選を目指さないと決めた時のことを例に挙げる。

民主党はこの時、代議員が党大会で誰でも好きな候補者に投票できるオープンな方式から、代議員が予備選の結果に基づいて候補者に拘束される方式に移行した。

「党の規則委員会はいつでも、大統領候補の選び方に関する規則を変更できる」とライト・リグール氏は説明し、「可能性が全くないことは何もない」のだと付け加えた。

仮にバイデン氏がいきなり選挙戦から離脱したとしても、代わりに擁立される候補の法的正当性を問題視し、提訴しようとする動きも保守派の間に出ている。

ハリス氏はバイデン氏の代わりになれるか

カマラ・ハリス副大統領は、バイデン氏が大統領の任期中に退任した場合、自動的にその後任となる。

しかし、大統領選についてはこの決まりは適用されない。つまり、バイデン氏が11月の選挙から撤退したとしても、ハリス氏が自動的に党の候補になるというわけではない。

ハリス氏は他の候補者と同じように、代議員の過半数を獲得しなくてはならない。

すでに民主党の副大統領候補として指名されることが決まっているだけに、ハリス氏は確実に有利だろう。しかし、アメリカ国民の間での人気があまり高くないことが、不利に働くかもしれない。

調査会社ファイブサーティエイトによると、支持率と不支持率の差分は、バイデン氏もドナルド・トランプ前大統領もハリス氏もマイナスで不支持率のほうが高いが、この3人の中で不支持率が一番低いのはハリス氏だという。

ほかに誰が代わりになり得る?

今年の民主党予備選では、ミネソタ州選出のディーン・フィリップス下院議員や作家のマリアン・ウィリアムソン氏が、バイデン氏に挑戦した。

しかし、どちらにも勝算はなかったし、この両氏がバイデン氏の代わりになる可能性はほとんどない。

カリフォルニア州のギャヴィン・ニューサム知事や、ミシガン州のグレッチェン・ウィトマー知事、ペンシルヴェニア州のジョシュ・シャピロ知事に期待する声もある。

しかし、現職大統領の代わりになりたいとは、この3人は誰も公に意思表示していない。

憲法修正第25条が発動される可能性は?

憲法修正第25条のもと、大統領が職務を遂行できないと、副大統領と閣僚の過半数が宣言することは可能だ。

この場合、大統領権限は副大統領に移譲され、副大統領が大統領代行となる。

実際にこの条項が適用されたことは、これまで一度もない。

しかし、27日の討論会を受けて、連邦議会の共和党幹部はバイデン政権の閣僚に対し、修正第25条の発動を検討するよう求めた。

2021年1月の連邦議会襲撃事件の後、民主党が多数だった当時の下院は、マイク・ペンス副大統領(当時)に対し、修正第25条を発動してトランプ大統領から大統領権限を取り上げるよう促す決議案を可決した。しかし、この動きはそのまま頓挫した。

(英語記事 Can Biden be replaced as Democratic nominee? Not so easy

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/crg548281njo


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