2024年7月4日(木)

BBC News

2024年7月2日

バーンド・デブスマン、BBCニュース(米連邦最高裁)

アメリカの連邦最高裁判所は1日、ドナルド・トランプ前大統領ら歴代大統領について、刑事責任が部分的に免責されるとの判断を示した。11月の大統領選で共和党候補となることが確実な情勢のトランプ前大統領にとって、大きな法的勝利となった。

判事9人のうち6人がこの判断を支持し、3人が反対した。

トランプ前大統領は2020年大統領選の結果を覆そうとしたとして起訴されているが、今回の判断でそれが無効になるわけではない。ただ、その事件を形成する重要な要素が失われることとなった。

判事らは大統領について、「公的な行為」に関しては免責されるが、「公的ではない行為」に関しては免責されないとし、地裁で審理するよう指示した。

リベラル派の判事3人はこの判断に強く反対し、「私たちの民主主義への深い懸念」を表明。ソニア・ソトマイヨール判事は「今や大統領は法の上に立つ王となった」とした。

今回の判断により、トランプ前大統領が大統領選よりも前に、この事件で裁判を受ける可能性は低くなった。大統領選では民主党のジョー・バイデン大統領と対決する見通しとなっている。

大統領経験者は刑事責任を免れ得ると連邦最高裁が宣言したのは、米史上初めて。トランプ前大統領は、刑事訴追を受けた初の米大統領。

「大勝利」とトランプ前大統領

この日の判断を受けてトランプ前大統領は、「私たちの憲法と民主主義にとって大きな勝利だ」と、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」にすべて大文字で書き込んだ。

一方、バイデン選対のクエンティン・フルクス副本部長は、メディアとの電話取材で拳をテーブルに打ちつけながら、「免責、免責、免責。判事らはドナルド・トランプに独裁への鍵を手渡した」と激しい口調で話した。そして、判事9人のうち3人はトランプ前大統領に任命されたと指摘した。

前大統領を起訴した司法省のジャック・スミス特別検察官は、コメントを控えた。

今回の最高裁の多数意見は、トランプ前大統領の絶対的免責の主張を退けた下級審の判断を覆すものとなった。

最高裁判事らは、大統領は公的な行為に関して絶対的免責を受けられると判断。ただし、私的な行為に関しては起訴される可能性があるとした。

ジョン・ロバーツ最高裁長官は、大統領と司法省との話し合いは大統領の公的行為だとし、そのやりとりをめぐっては「絶対的に免責される」とした。

トランプ前大統領に対する起訴では、前大統領が法執行機関に圧力をかけ、広範にわたる不正投票が選挙結果に影響を与えたという主張について捜査させたとされる。そうした不正の主張はその後、根拠のないものだったと判明している。

ロバーツ長官は、大統領と副大統領の話し合いも公的な行為だと認定。トランプ前大統領が2020年大統領選で、バイデン氏の勝利を認定しないよう当時のマイク・ペンス副大統領に圧力をかけようとしたとされる疑惑をめぐっては、「少なくとも推定では免責となる」とした。

検察は起訴状でトランプ前大統領について、2021年1月6日の連邦議会襲撃を扇動したとして責任を追及している。証拠として、前大統領が当日、ホワイトハウス前でした発言やツイートを挙げている。

しかし連邦最高裁は今回、前大統領の演説とソーシャルメディア上の活動はすべて公的行為だと判断した。

検察にとっては、前大統領や側近らの私的な記録が「裁判で証拠として認められない可能性がある」とされたことも痛手となった。

この日の判断はまた、トランプ前大統領が選挙での敗北を覆すために州当局に圧力をかけたとされることをめぐって、そうした行為が「公的ではない行為」にあたるのか疑問を投げかけたが、最終的には下級審に判断を委ねるとした。

判事らは意見書で、「裁判の当事者と地裁は、そうした行為がなかったとしても、起訴内容を裏付けるのに十分な主張があると確認しなくてはならない」と説明。公的な行為を排除した後でも、裁判が維持されうるのか疑問視した。

ソトマイヨール判事は反対意見の中で、今回の判断によって大統領は、米軍特殊部隊に政敵の暗殺を命じたり、政権維持のために軍事クーデターを組織したり、恩赦を与える代わりに賄賂を受け取ったりしても、責任追及から守られることになると主張した。

ケタンジ・ブラウン・ジャクソン判事は反対意見で、保守派判事の多数意見による今回の判断は「新しく危険な地平を切り開く」とし、「法のガードレールを低くする」ことになると書いた。

これに対しロバーツ長官は、反対派の「恐ろしい破滅のトーン」は「まったくバランスを欠いている」と反論。また、免責は大統領の公的責任の「外周」にまで及ぶとし、刑事訴追のハードルを高めた。

シカゴ大学の憲法の専門家アジズ・フック氏は、今回の判断は特別検察官にとって「最悪のシナリオに含まれるもの」だとBBCに話した。

「裁判所が『公的』と位置づけた事実を排除して、スミス(特別検察官)が起訴内容を絞り込めるのかが、今後重要になるだろう」

法律専門家のミッチェル・エプナー氏は「これはドナルド・トランプにとって大きな勝利だ」とBBCにコメントした。

同氏によると、地裁では今後、どの罪状について裁判を進めるのかを決定しなければならず、トランプ前大統領はその判断に対して再び最高裁まで争うことが可能になるという。

追加取材:ケイラ・エプスティーン

(英語記事 Trump has some immunity from prosecution, Supreme Court rules

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cd1eky5rdg5o


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