「8項目の経済協力プラン」とは、何だったのか
近年の経済分野における日露関係は、ロシアとの関係強化を目指す日本政府の「片想い」とでも言うべき強い意向が多分に反映されていたり、もしくはもともと日露間で動いていた計画が、ロシアに対する経済協力の一環として行っていると見えるように「水増し」して紹介されていたりしたものも少なくなかった。例えば、極東における農業支援や、ごみ処理分野での日本の技術輸出などは、かねて民間企業により進められていた。また、日露の首脳会談後に発表される案件には、事業化を検討する程度の内容も多く含まれ、実現性が不明瞭との印象がぬぐえなかった。
なぜこのようないびつな状況が生み出されていたのか。背景にあったのは、安倍政権が北方領土問題をめぐる外交交渉と合わせて推進した、「8項目の経済協力プラン」だった。
8項目の経済協力プランとはどのようなものだったのか。これは、2012年12月に首相に復帰した安倍氏が推し進めた、ロシア側のメリットを多分に強調した、経済分野での対露協力提案だ。
安倍首相は首相復帰の翌年の2013年4月に、日本の首相として10年ぶりに公式にロシアを訪問した。さらに、2014年2月にも、ロシア南部ソチで行われた冬季五輪の開会式にも出席し、プーチン大統領と会談した。
ソチ五輪をめぐっては、ロシア国内における人権問題への懸念から、欧米の主要国の首脳が軒並み欠席していた最中だっただけに、安倍首相の訪露は日本の対露接近姿勢を世界に印象付けた。
直後の3月には、ロシアはウクライナ南部クリミア半島を併合し、東部での戦闘も激化した。欧米諸国は相次ぎ対露制裁を打ち出したが、ロシア側は併合状態を解消することはなく、対立は長期化が必至となった。ロシアは、国際社会からの孤立を深めていった。
しかし、そのような状況が依然として続くなか、安倍首相は2016年5月にはロシア南部ソチを再び訪問し、プーチン大統領との会談に踏み切った。この会談をめぐっては、アメリカのオバマ大統領が見送りを要請したが、それを振り切る形で安倍首相が訪露したとされる。そのような安倍首相の姿勢に対しプーチン大統領は「アメリカからの圧力にもかかわらず、われわれの日本の友人たちは、(ロシアとの)関係を維持しようと努力している」と評価したという。
その首脳会談の場で安倍首相が打ち出したのが、「8項目の経済協力プラン」だ。8項目は、「都市づくり」「エネルギー」「ロシアの産業の多様化」「極東の産業振興」などの項目で構成される。
以来、日本政府はこれらの項目に沿った形で、経済分野におけるロシアとの緊密な協力関係の構築をアピールするようになる。北方領土問題を前に動かしたい日本が、「経済協力」というもうひとつのカードを使いながら、ロシアに接近し続ける構図がそこにはあった。