ただ、実際に日本の取り組みが、ロシアとの経済関係の拡大にどこまで寄与したかは疑問が残る。日露間の貿易額は拡大していったものの、そのペースは遅く、アジアではむしろ、韓国の方がロシアとの貿易を伸ばしていったのが実情だからだ。首脳会談では、その成果として経済分野での新規の協力案件が紹介されるのが常だったが、ロシア側からは「サハリンと北海道間の橋の建設など、欲しいのはビッグプロジェクトだ」との声が聞かれており、その内容への評価は必ずしも高くはなかった。
プーチンのパフォーマンスに翻弄されて
ロシア側も、そのような日本の動きを見透かしながらも、一定の〝お付き合い〟はしていた。
例えば2017年にロシア中部エカテリンブルクで開催された産業展示会では、日本の企業団が大規模出展を行ったが、プーチン大統領が早朝にもかかわらず現地を訪問し、予定の時間をはるかにオーバーして日本企業の出展を見て回るパフォーマンスを行った。
その前日には、現地を訪問していた森喜朗元首相をプーチン大統領が歓待し、深夜にもかかわらず、わざわざ高齢の森氏を気遣うように彼をホテルまで送り届けてみせた。ただ送っただけでなく、私を含む報道陣の目の前で、森氏と語り込んでみせた。
森氏は感動した面持ちで、「彼ほど日本人の感性を持っている人はいない」などと持ち上げるなど、両国の〝緊密〟な関係が強調された。
しかしその後も、ロシアは日本の経済協力以外には、具体的な関心を寄せることはなかった。焦点の北方領土問題では、ロシア側は北方四島を経済特区に指定したり、首脳会談を積み重ねたあとの2019年の段階ですら、プーチン大統領が安倍首相に対し「解決策を得るためには、入念な作業が待ち構えている」と言って突き放したりするなど、解決の道筋は一向に見えないままだった。
そして、安倍政権は2020年9月に退陣。世界は新型コロナウイルス禍に襲われ、日露の経済関係がさらに縮小した。そして2022年2月にロシアはウクライナへの全面侵攻に踏み切った。
日本政府は、その直後には一連の対露経済協力を凍結した。経済分野における日露関係が改善される見通しは、一向に立たないままでいる。