2024年11月22日(金)

バイデンのアメリカ

2024年7月10日

 第三に、2021年発足以来のバイデン政権の高い実績評価がある。

 内政面では、国民健康保険加入者数がトランプ前政権当時の1200万人から2130万人となり、未加入者の割合も全体の22.3%から10.4%に激減した。

 消費者物価指数は前政権当時の7~8%台から最近は3%前後にまで下がった。

 雇用も過去3年間で、新たに1480万人増となり、失業率は1960年代以降最低となる4%以下に落ち着いてきている。

 環境保護面では、過去3年間に代替エネルギー開発関係などを中心に3000億ドルの大規模投資計画が軌道に乗り始め、クリーン・エネルギー開発競争も活況を呈しつつある。

 犯罪率も低下しつつあり、凶悪犯罪とくに殺人率は2020年末当時の29%から昨年末には11.8%へと激減している。

 外交面では、ウクライナ戦争、中東ガザ地区紛争など未解決の難題を抱えてはいるものの、前政権時代にズタズタになった日欧、アジア諸国との同盟・友好関係再構築に積極的に乗り出し、関係諸国からも高い評価を得ている。

 全般的に見て、有権者の過半数がバイデン政権の実績に関する限り、好意的に評価していることは間違いない。

 第四点目として、「2012年の教訓」を指摘する声も少なくない。

 同年大統領選は、バラク・オバマ民主党候補とミット・ロムニー共和党候補との間で争われたが、その際の第一回TV討論会では、オバマ候補が終始精彩を欠き、直後の世論調査でも視聴者の大多数がロムニー候補に軍配を上げた。当時の米マスコミ各紙もこぞって「ロムニー圧勝」「民主党陣営の大ショック」ぶりを報じた。

 ところが、第二回以降の討論会ではオバマ候補が巻き返しを図り、高い評価を得た。最終回の討論会では完全に形勢が逆転した。

 そして11月の本選では、得票総数で51.1%対47.2%と僅差ではあるもの、オバマ氏がロムニー氏を押さえ初当選を果たした。

 ただ、当時若さにあふれたオバマ氏と年齢的衰えの明白なバイデン氏とを同列視すること自体には異論もある。

バイデンが撤退に追い込まれる「2つのif」

 もちろん、このような事情があるにせよ、バイデン氏自身が今後、いずれかの時点で「撤退」を決断した場合はこの限りではない。しかし、今のところ、バイデン氏は不名誉な結果に終わった討論会がまるでなかったかのように今後の選挙戦に意欲を示している。

 去る5日には、ウィスコンシン州マジソンでの選挙集会に姿を見せ、壇上で「私はどこにも行かない。11月投票日まで戦い続け、トランプを打ち破る」と明言。撤退の意思が全くないことを強調して見せた。

 同日放映されたABCテレビ会見番組でも、撤退を繰り返し否定、「自分以外に正当な候補はほかにいない」として断固、戦い抜く決意を改めて表明した。

 こうしたことを踏まえ、議会民主党幹部としては、現時点でただちに、局面打開に向けた思い切った行動には出にくい状況に置かれている。

 8日には、民主党内でさらなる不安が広がる事態を避けるため、大統領自らが上下両院の民主党議員全員宛に書簡を送り、今後も毅然として戦い抜く姿勢を改めて強調するとともに、理解を求めた。ハキーム・ジェフリーズ同党下院院内総務、チャールズ・シューマー上院院内総務も同日夕、重ねてバイデン候補の下で選挙戦を継続し、勝利を目指すとの見解を発表した。

 しかし、かりにバイデン氏が同意しなくても、今後、撤退に追い込まれる可能性が皆無とは言えない。それは「2つのif」にかかっている。


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