日本は米国型の企業統治を
導入すべきではない
よく日本では「大企業にはイノベーションはできない」「図体が大きいため動きが遅い」と言われるが、独立子会社を設立するなど方法はある。ITやユーザーサイドの意見を生かし、良い循環を作り上げるべきだろう。
そのためには、「日本の強み」を理解する必要がある。まず挙げたいのは政府と企業間の調整力が優れているという点だ。日本はまさに「調整型市場経済」だと言える。一方で米国は政府系各機関と産業政策がマッチしていないことが多々ある。行政の中での分散、連邦政府と州自治体での差など、調整すべき点が多い。
またコーポレートガバナンスの面でも、米国は株主重視なのに対し、日本はステークホルダー全体に配慮したものになっている。
私は、日本には、米国型の企業統治を導入すべきではないと考える。なぜなら株主重視の方針がパフォーマンスにつながるという証拠はないからだ。
一方で日本の企業統治に欠けているのは多様性の側面だ。女性や外国人登用など、他の先進国と比較すると導入が遅れている。また説明責任を明確にするための第三者による視点もやや欠けている面がある。
バブル崩壊以降、日本ではコストダウンが叫ばれてきたが、短期的には利益が上がるように見えても長期的に見ればマイナスに働くことも少なくない。特に2014年以降は企業の利益率は上がってきているが、労働分配率は下がっている。つまり労働者の犠牲の上で利益を上げていることになる。
日本企業が考えるべきは、「国内重視から国外へ目を向けること」、会計の専門家などを招聘し、「説明責任を果たすこと」、「多様性を実現すること」などではないだろうか。また四半期ごとの決算を重視するのは短期的見方であり、中長期的イノベーションに注力すべきだと考える。
これらをまとめると、日本の変えていくべき点として以下の3点が挙げられる。
1.日本型教育の強みを生かした人材育成。さらにソフトウェア教育の充実など、高等教育へのテコ入れが必要である。
2.イノベーションのための政府支援。自由型経済という幻想にこだわる必要はない。調整型経済の利点を生かし、中長期的イノベーションを育てるための適切な政府支援が必要である。
3.労働改革による労働市場の改善。日本でも「働き方改革」など、労働者有利の政策が進められているが、現状は不十分であり、将来の日本のニーズと社会的ニーズに合致した労働市場を築くべき。
さらに言えば、米国型のコーポレートガバナンスを過度に目指さないことだ。デメリットはあるものの、日本では政府教育支出は富裕層、中間層、貧困層に対しほぼ平等に行われている。米国では富裕層への支出が大きく、欧州では貧困層への支出が多い。
最後に、私はバークレーで政治経済を担当しているが、最近では純粋な「経済学」よりも「政治経済学」を目指す学生が増えている。社会格差、気候変動など、従来の経済学的視点だけではなく、政治経済的視点でアプローチしなければ解決が困難な問題が増えているためだ。
さらにデータやコンピューターサイエンス、さらには社会系学問との連携も必須になりつつある。特にAIと倫理など、一つの学問では解決できない問題も浮上している。
今後はアカデミアとビジネスの調和もより必要となるだろう。現時点では両者の間に壁があるのも事実だが、より総合的な教育を行うことで今後の社会に出現する諸問題に双方から解決策を模索していく必要性があり、日本の教育の現場でもこうした観点を取り入れることが必須となる。