2024年12月24日(火)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年6月14日

 経済産業省が「第16回 産業構造審議会 製造産業分科会」で配布したスライド、「製造業を巡る現状と課題 今後の政策の方向性」が話題になっている。このスライドの要点は、海外比率が高まる中で日本の企業はどのように「本社の経営力」を高めていくのかという問題である。これは重要な問題提起だ。

日本の製造業は再び隆盛を取り戻すことができるのか(Monty Rakusen/gettyimages)

 このスライドが示唆している議論は比較的単純である。まず、日本発の大企業の多くが海外比率を高めており、売上の海外依存だけでなく、従業員も全体で6割以上が現地採用の外国人になっているという指摘をしている。つまり、日本企業の多くが日本発の多国籍企業になっている。

 にもかかわらず、日本企業の収益性は依然として低いままであり、米欧あるいはアジアの一流企業が常に20%以上の利益を追求しているのと比較すると、見劣りするとしている。その対策としては、何よりも本社の経営力が弱く、各国の現地法人に任せすぎという傾向があると指摘し、本社の経営力向上のためには何ができるかを提言している。

 これが議論の主要な部分であり、これに経済安全保障の対策や、宇宙航空への取り組みについての議論が加わっている。この経済安保の部分は、何でも守れ、隠せといった議論ではなく、経済成長を損なわずに国家の安全も保障して行こうという常識的なものであり、これはこれで興味深い。宇宙航空についても、仕切り直しが必要な状況の中で、真剣な議論は避けて通れない。

 それはともかく、この経産省のスライドが提起している問題は、実は重く深い。それは、単に日本企業の業績向上であるとか、そのための経営力の向上といった問題を超える課題を突きつけてくるからだ。そこには大きな2つの課題が横たわっている。

見過ごしてはならない国内市場の空洞化

 1つ目は、空洞化による国内経済の衰退という問題だ。経産省のスライドが指摘しているように、日本企業の海外比率は高まるばかりだ。

 当初は為替リスク低減のためであった現地生産は、やがて現地雇用の保証という目的が加わり加速した。現在は優秀な技術者を確保したり、自由なテック関連の開発を進めるとか、先進的なデザインを導入する必要性の中で、企画開発機能も国外に出すようになった。

 資料では、従業員の海外比率が6割を超えているとしているが、給与総額では恐らく比率はもっと大きいであろう。幹部社員も、執行役員も多国籍化している。

 そんな中で、経団連などに加盟している日本企業で、日本の名前がついていても実態は多国籍化が進行している。その結果として、国内での雇用、国内での国内総生産(GDP)寄与という面が全く顧みられなくなった。


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