2024年6月27日(木)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年6月14日

 豊かな社会を実現したはずの日本で、子どもの貧困が問題になったり、依然として非正規雇用の問題があるのは、この空洞化の問題がある。観光業は立派な産業であり、ニーズがある中では拡大努力をするのは当然だが、大卒が50%を超える高教育国家で主要産業が観光業だというのは、何かが間違っていると思う。ここにも製造業の空洞化が影を落としていると言えるだろう。

 この傾向をこのまま放置して良いのだろうか。日本の世論は原発再稼働に否定的であり、これを説得できなければ電力の廉価で安定的な供給は難しい。

 勤労に対するモチベーションや学力が二極分化する中では、昔のような分厚い中間層が製造業を支えることも難しくなった。何よりも、人口減に加えて、高度な嗜好と購買力をもった消費者層が消えた中では、国内市場の魅力は薄れている。

 自動車産業が典型であるが、今回の型式指定を巡る騒動が明らかにしたように、電気自動車(EV)時代かつ人手不足の中においても旧態依然とした車検制度が維持されているように、日本の国内市場にはさまざまな規制がある。ニーズは縮小しつつあるのに、規制だけは煩雑なものが残り、しかも全体的にはデフレ傾向ということでは、日本企業自身が国内市場を見捨てる日も遠くないであろう。

海外事業の収益は日本の経済力とはならない

 経産省が指摘するように、確かに米欧の主要企業と比較すると、日本企業の前提的な収益率は低い。だが、そこにメスを入れるとなると、真っ先に切り捨てられるのは収益寄与の低い日本市場であったり、生産性の低い日本のオペレーションであったりするかもしれない。

 もちろん、処方箋は描ける。時代に合わなくなった日本の教育制度を改革したり、さまざまな規制を改革する中で、日本の生産性や市場の魅力を回復するのが正しいのは明らかだ。だが、実際に教育制度や規制を改革するのには時間がかかる中では、これ以上の空洞化をどうやってストップするのか、この問題は実に重く深い。

 せめて認識だけは改めていただきたいと思う。日本経済とは、日本発の多国籍企業が世界で稼いでくる業績の合計ではない。そうではなくて、日本の国内の経済活動の総計である。このGDPが弱くなれば、通貨も安く叩かれ、税収は細り、国債は値下がりし、国内では格差と貧困が進む。

 多国籍企業の繁栄イコール日本の繁栄ではない。このことを財界としては認識すべきであろう。

日本本社はどうタクトを振るうべきか

 2つ目は、日本の本社をどうするのかという問題だ。空洞化を伴う多国籍化をしているにせよ、日本の企業は依然として本社を日本国内に置いている。

 その日本企業の業績は良いに越したことはない。業績が良ければ、株価も上がるし、国内の本社の給与も上がり日本経済への寄与も生じる。その意味で、日本企業の収益が低く、それは本社の経営力不足によるのであれば、改めるべきであろう。

 この点こそ、経産省の問題提起の本筋であり、スライドの示唆する方向性はシンプルだ。それは、日本の本社も経営力を高めてグローバルな水準に近づけよということだ。


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