2024年6月27日(木)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年6月14日

 グローバルな水準に近づけよというのは、2つのことを意味する。1つは企業全体の共通言語は英語になるべきだ。日本の経営者が英語でハイレベルの経営ができるということが、何よりも最優先である。また日本以外の雇用というのは「ジョブ型」であり、専門性を売り物として企業に入ってきた人材である。

 そうした専門職集団を統御してゆくには、「自分は何も知らないが判断だけはするので、ブリーフィングは丁寧に頼む」などという、日本流の経営では全く不十分である。あらゆる階層の専門職にナメられないだけの「経営という専門職能」を極めていくことは何としても必要だ。そのように統制を効かしてゆく中で、米欧の主要企業と同様に20%以上の利益率を稼ぐ体質を作っていかなくてはならない。

 ここで心配なのが、その日本の本社事務部門の位置づけである。日本の本社事務部門は、今でもデジタルトランスフォーメーション(DX)で遅れを取り、日本語という特殊な言語を使っていることや、さまざまな規制のために紙の文書を廃止できないとか、会計基準が異なるなどのハンデを背負っている。

 それでも、今は円が安いので事務部門の経費は、ドルベースの連結決算では圧縮される。従って、多少の非効率は許容される面がある。

 仮に諸々の条件に変化が起きて、円安トレンドが反転したとしよう。そうなると、この種の非効率は全体として無視できなくなり、事務の効率化に厳しい目が向けられることはあり得る。反対に、現在以上に更に円が安くなる場合には、円建ての国内資産比率の高い企業の場合は、海外勢の買収攻勢にさらされる危険が増大するであろう。

日本企業が買い叩かれないために

 つまり、経産省が心配している現状、日本企業の海外比率が高まり多国籍化している一方で、本社の経営が旧態依然としていることで、米欧の優良企業に比べて利益率の点で見劣りするのは、過渡的な状況なのかもしれない。厳しいことを言うのならば、本社の経営も徹底して国際化しなければ、日本経済とともに本社部門も安く買い叩かれてしまう。その一方で、本社の経営を徹底して国際化したとすると、それでも日本企業は日本企業のままでいられるのか、という問題もある。

 仮の話として、DXや英語化、そして経営の多国籍化を進め、米欧の優良企業のように非効率部門を徹底してカットする中で、20%以上の利益を稼ぐような変革は不可避だとしよう。その場合に、最後まで残る日本企業の強みというのは、一体何であろうか? 特に今回の経産省の問題提起にある製造業の場合は何が残るのか、あるいは残していかねばならないのか、これは大きな、そして重い問いである。

 この問いには何としても答えを見出してゆかねばならない。その答えの中に、この40年間ズルズルと進行した空洞化を止める鍵が含まれているのではないかと思われる。

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