2024年8月3日(土)

BBC News

2024年8月3日

アメリカのロイド・オースティン国防長官は2日、2001年9月11日に世界貿易センタービルや国防総省が襲われた同時多発攻撃で、ハイジャック攻撃を計画した罪に問われている3人の被告との間で成立した司法取引の合意を破棄すると発表した。

2日の省内通達でオースティン長官は、同時多発攻撃の主犯格5人について公判前の司法取引を監督していた軍事委員会の責任者、スーザン・エスカリエ退役准将に対して、事案の重要性を受け、決定権は国防長官の自分にあるべきだと判断し、エスカリエ氏からその権限を取り上げると伝えた。

オースティン長官は通達で、ハリド・シェイク・モハメド被告、ワリド・ムハンマド・サリフ・ムバラク・ビンアッタシュ被告、ムスタファ・アフメド・アダム・アルハウサウィ被告、ラムジ・ビナル・シビ被告、アリ・アブドル・アジズ・アリ被告の5人と、司法取引に入る権限について、「本件で被告人たちと公判前の司法取引に入るという決定の重要性に照らして、そのような決定の責任は、2009年軍事委員会法のもとで最高権限を持つ自分にあるべきだと判断した」と説明。そのうえで、9/11主犯格と司法取引する権限をエスカリエ退役准将から取り上げ、その権限は自分だけのものとすると伝えた。

さらに長官は、エスカリエ退役准将が7月31日に承認した3件の司法取引の合意内容を、自らの権限のもと直ちに破棄すると表明した。

国防総省は7月31日、主犯格5人ではなく3人の被告との間で司法取引の合意が成立したと発表していた。米メディアによると、検察側が死刑を求刑しないことへの同意と引き換えに、被告たちは有罪を認めることになると伝えていた。

同時多発攻撃の主犯格たちは裁判が行われないまま、米海軍がキューバに置くグアンタナモ基地に収容されている。

モハメド被告の代理を務めるギャリー・ソワーズ弁護士は米紙ニューヨーク・タイムズに、国防総省の唐突な方針転換はショックだと話した。

「国防長官がそのような命令をしたのなら、これほどの長年を経てもなお政府が、この件からなんの教訓も学んでいないことになり、私は失礼ながらとても落胆することになる」と弁護士は述べ、「適正手続きや信義則を無視すると、いろいろ面倒なことになる」とも指摘した。

ホワイトハウスは7月31日、発表された司法取引に関与していないと述べていた。

遺族や共和党は司法取引を批判

同時多発攻撃で家族を失った遺族の間では、被告たちとの司法取引は寛容すぎると批判の声が上がっていた。

夫トムさんを失ったテリー・ストラダさんはBBC番組に対し、「司法取引が今日決まって、グアンタナモで拘束されている彼らの希望をかなえると知って、みぞおちを殴られたみたいな気持ちになった」と話していた。

被告たちは、民間人への攻撃、戦争法違反による殺人、ハイジャック、テロ行為など、多くの罪に問われている。

バイデン政権は昨年9月、グアンタナモ海軍基地に拘束されているモハメド被告ら5人との司法取引の条件について拒否したと報じられた。

5人は当時、独房に入れられず、トラウマ治療を受けられるという保証を大統領に求めたとされる。

7月31日に司法取引が発表されると、野党・共和党もバイデン政権をすぐに攻撃した。

共和党幹部のミッチ・マコネル上院少数党院内総務は、この動きを「アメリカを守り、正義を提供するという政府の責任を放棄するものだ」、「テロリストと交渉することより悪いのは、テロリストが拘束された後に交渉することだ」と非難していた。

「9/11」とは

2001年9月11日の同時多発攻撃では、イスラム武装勢力アルカイダの実行犯グループがアメリカの旅客機4機をハイジャックした。うち2機がニューヨークの世界貿易センタービルに、1機がワシントン郊外にある米国防総省の西壁に突入した。

残る1機はワシントンの連邦議会議事堂かホワイトハウスに向かっていたとみられるが、乗客たちがハイジャック犯に抵抗し、ペンシルヴェニア州シャンクスヴィルで墜落した。

ハイジャック犯とされる19人を除き、この攻撃で3000人近くが亡くなった。アメリカ領土での攻撃としては、1941年の旧日本軍による真珠湾攻撃以来の死者数だった。

また、この攻撃が、アメリカの「対テロ戦争」と、アフガニスタンとイラクへの侵攻の引き金となった。

(英語記事 Plea deal with accused 9/11 plotters revoked

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/ce939plk304o


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