2024年8月3日(土)

BBC News

2024年8月3日

サラ・レインズフォード、BBCニュース(ボン) マロリー・メンク、BBCニュース(ロンドン)

ロシアとアメリカなど西側諸国との間で1日に実現した受刑者交換で釈放された、ロシアの反政府活動家たちが2日に記者会見し、恩赦嘆願の手紙に署名するのを拒否したのだと明らかにした。

ロシアの刑務所から釈放され、トルコ経由でドイツに着いた反体制派のウラジーミル・カラ=ムルザ氏とイリヤ・ヤシン氏、アンドレイ・ピヴォワロフ氏の3人がボンで記者会見した。ウラジーミル・プーチン大統領に送るため恩赦嘆願の手紙に署名するよう刑務所当局から求められたが、それを拒否したのだと、カラ=ムルザ氏とヤシン氏は明らかにした。

カラ=ムルザ氏は、今回実現した身柄交換で「16人の人間の命」が救われたと言い、自分はそれまで刑務所で死ぬのだと確信していたと話した。

さらに、多くのロシア人が実は「ウクライナでのプーチンの戦争に反対している」とも述べた。

記者会見した3人は、今後も「自由な」ロシアのために働き、今なおロシアで政治思想犯として収監されている人たちのために活動し続けると約束した。

ヤシン氏は今回の交換について「複雑な気持ち」でいると認めた。自分の釈放のために尽力してくれた人たちに感謝しつつ、ドイツに到着して真っ先に、帰国便のチケットを買いたいと思ったことを明かした。

ヤシン氏はBBCに対して、プーチン大統領にとっては野党勢力が国外に亡命している方が「はるかに楽」なのだと指摘。「国外にいる反対の声よりも、獄中にいる反対の声の方が常に、重みをもつからだ」と説明した。

「自分がロシアの外に出るなど、想像したこともなかった」とヤシン氏は言い、助けてくれた人たちに「永遠に感謝する」としつつ、「自分はここでは客人だ。一番の望みは、ロシアに戻ることだ」と話した。

「亡命させるなと要求したのは自分だけではないが(中略)誰も自分たちの意見を聞かなかった」とも付け足した。

ただしヤシン氏は、自分がロシアに戻れば、他の政治犯の身柄交換を交渉しにくくなるし、ドイツ政府への批判も高まりかねないと認めた。ドイツ政府は今回の受刑者交換にあたり、チェチェン人反体制派をベルリンの公園で暗殺した罪で終身刑となり服役していた、ロシア連邦保安局(FSB)将校、ヴァディム・クラシコフ受刑者の釈放に応じた。

ヤシン氏は、クラシコフ受刑者の釈放をめぐりドイツ政府は「倫理的なジレンマ」に直面したと述べた。

ロシア野党政治家のヤシン氏は2022年6月に逮捕され、ウクライナ・ブチャでの住民殺害をユーチューブで話題にしたことがロシア軍に関する虚偽情報の拡散罪にあたるとされ、同年12月に禁錮8年6カ月の判決を受けていた。

ロシアとイギリスの二重国籍を持つカラ=ムルザ氏は昨年4月、ウクライナでの戦争を批判したことに関連した罪で、禁錮25年の刑を受けた。作家でジャーナリストのカラ=ムルザ氏は、民主派グループ「オープン・ロシア」の副代表。

「オープン・ロシア」の元代表ピヴォワロフ氏は、違法集会を開催した罪で2020年9月から収監されていた。

ノーベル平和賞を受賞したロシアの人権団体「メモリアル」によると、ロシア国内では今なお何百人もの政治犯が獄中にいる。

記者会見ではピヴォワロフ氏が、今回の身柄交換は釈放は可能だと示す「光の兆し」だと述べる一方で、カラ=ムルザ氏は「大海の一滴」に過ぎないと指摘。「今まで一度も何の犯罪も犯したことのない、罪のない人が大勢、ひどい状況で捕らわれている」のだと述べた。

カラ=ムルザ氏は、10カ月以上にわたり独房に入れられていたと説明。2年半にわたる拘束の間、妻と電話で会話できたのは1度だけだったと明らかにした。

「妻にまた会えるなど思っていなかった。家族とまた会えるなど信じていなかった。なので、これは現実のこととは思えない。まるで映画みたいだ」と、カラ=ムルザ氏は話した。

カラ=ムルザ氏は、刑務所から出された時のことについて自分は銃殺されるのかと思ったと述べた。収監されていたほかの反体制派の姿を見て初めて、何が起きているのか気づいたという。

ロシアを離れる機内に座っていると、ロシア政府の役人だと名乗る男性に、母国を見るのはこれが最後だと言われたことも、カラ=ムルザ氏は明らかにした。

そう言われて、「自分は絶対、母国にまた戻ってくる」と答えたのだという。

今回の受刑者交換で同様に釈放された、反体制派でアーティストのサーシャ・スコチレンコ氏はBBCに対して、自分も刑務所から出された時は殺されるのだと思ったと話した。

自由になった今、「ショック状態」で「アドレナリンが出まくっている」とスコチレンコ氏は話した。

「本当にうれしい。本当に幸せで、本当に感謝している」とスコチレンコ氏は続け、「ついに愛する家族と一緒にいる。恋人の彼女と。婚約者と。結婚するつもり。ここドイツで、ついにそれができる(中略)今日は生きていて一番幸せな日です」と喜んだ。

釈放されたロシア人反体制派たちはさらに、今年2月に刑務所で死亡した野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏をたたえた。

米ホワイトハウスは1日、身柄交換に本来ならばナワリヌイ氏も含まれる予定だったと明らかにしている。

ヤシン氏は、「アレクセイがここに一緒にいないこと自体、プーチンによる犯罪だ。アレクセイ殺害の直接的な責任はプーチンにある」と批判した。

カラ=ムルザ氏は、「ロシアとプーチンは同じではないと、民主国家の人たちに思い出してもらいたい」と話した。

同氏は記者会見の後、BBCに「もちろん活動を続ける」と話し、「自分の国のことが大事だ。そしてロシアは、KGB(ソ連国家保安委員会)出身の腐敗した独裁者などではない、まともな指導者を得ていいはずだ。ロシアが普通で現代的な、民主国家になるようにしたい」と抱負を語った。

(英語記事 Freed Russian dissidents refused to sign plea for mercy from Putin

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cv2g2dep9r4o


新着記事

»もっと見る