筆者の知り合いは「この前、家族3人で中華料理を深圳で食べてきました。香港と比較すると3~4割安かったです。交通費を含めても安い。家族持ちとしては大きな違いだよね」と自らの財布が第一だ。
また、ある知人は自分が働く香港の会社が深圳に支店を開設したため、深圳に高頻度で出張にいかなければならなくなった。今の中国は電子マネーが発達し、現金どころかクレジットカードすら受け付けないところも増えている。「中国本土の電子マネーのサービスを利用しなければ買い物どころか交通機関に気軽に乗ることもできない。中国本土でまず銀行口座を開かないといけなくなりました。諸手続きが面倒で口座開設まで何度も銀行に通ったよ」と苦笑いする。口座開設後は買い物を楽しんでいるとも話していた。
今では、中国本土の決済サービスAlipayの香港版がリリースされており、中国本土でも利用できるようになっている。支払の心配がなくなったことも北上を加速させている。
香港と深圳はイデオロギーが異なる都市だとしても、物価が安く自分の生活が良くなるのであれば深圳で消費するのだ。口座を作った知人は「政治的なことはあるけど、実際、深圳の物価は安いからね。生活もあるし」と淡々と語る。
日本人には理解できないかもしれないが、香港流の本音と建て前の使い分けることで生き延びてきた彼らのやり方である。
香港政府は腹をくくったか
香港政府は国安法などで外資系企業のビジネス環境が悪化していると感じている事実を内心は理解しているものの、有効な打開策を見つけられずにいる。そこで深圳とのボーダーに北部都会区(Northan Metropolis)という構想を掲げ、香港経済と中国経済をより一体化することで経済基盤を強化しようとしている。
北部都会区には、ITや科学技術の集積地を作る計画で、大きさは香港総面積の3分の1を占める3万ヘクタール、98万人が住み、13万4000人もの雇用を生むとしている。現在、香港島が香港経済の中心地だが、もう1つの中心地を作ると言っても過言ではない。
あるITエンジニアは「まだ、これからの進ちょくを見ていく状況だが、この圧倒的な規模感は香港最後の大開発だ」と語る。
香港政府はもう腹をくくったのかもしれない。自由都市として欧米との取引を通じて経済を活性化させるのではなく、中国経済と一体化することで経済活性化を目指す。ただ、中国と欧米とくに米国とはデカップリングの方向に進んでいて、中国経済の先行きが見通せないことで、中国本土との一体化が安心して経済基盤の強化につながるとまでは言い難い。
資源のない香港は、欧米であれ、中国であれ外部とつながることで生き延びるしかない。それゆえに変化し続けることで香港人は生き延びてきた。ただ、政治的要因で硬直化する態勢が常態化すれば、香港経済が苦しくなるのは避けられない。