2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2024年8月5日

 香港政府統計処によると、5月の「黄金周」(中国本土版ゴールデンウィーク。メーデーに合わせ数日間休みとなる)での売上は前年比11.5%減の305億香港ドル(約6000億円)で、特にデパートでの販売は同21.1%減と深刻だ。

「安い」深圳へ流れる香港の消費

 では、香港人が経済活動をしていないのかというと、そういうわけではない。深圳に日帰りする香港人が増えている。入境事務処をみると7月1日の香港の中国返還記念日の祝日、深圳から香港に向かった人は7万4924人だが、香港から深圳に向かった人は23万2076人と3倍も差があった。「北上消費」と呼ばれる深圳で消費活動をする現象だ。

 香港人はなぜ、「北上」するのか。理由は簡単で、「安い」からだ。小売りにおいては、香港で軒並み商店が閉鎖した時をほぼ同じにした今年1月、深圳に会員制大型スーパーの米コストコがオープンし、多くの香港人が向かった。映画館の閉館はネット配信発達の影響もあるものの、映画を観るのに香港では150~200香港ドル(約3000~4000円)かかるのに対し、深圳ではおよそ70元(約1500円)と、大きな価格差を生んでいる。深圳で買い物ついでに鑑賞する人も少なくない。

 1997年の香港の中国返還から歴史たどると、2007年まで香港人はよく深圳に行き、買い物やレストランで食事をし、香港人が中国で“爆買い”していた。それはまだ中国が発展途上で物価が安かったからだ。通貨が異なる香港ドルの現金払いも深圳の人に喜ばれた。

 07年1月に香港ドルと人民元の価値がついに逆転し、03年から段階的に中国本土の個人旅行が認められるようになり、今度は中国人が香港で爆買いを始めた。

 ところが、新型コロナが潮目を変えた。香港ドルは1米ドル7.8香港ドルで固定しており、米ドル高は香港ドル高と同義ということになり、人民元と香港ドルの価値の差が再び縮まった。人流が20年前にタイムスリップしたのだ。また、20年に反政府的な活動を取り締まる国安法が施行され、政治的な不安から海外企業による投資や日本人をはじめとする海外からの観光客が減少したことも景気に少なからず影響を与えている。

政治的には支持せずとも「消費」はする

 香港人は、自らの生活を厳しくした一つの要因となっている中国本土へ消費をしに行っている形だ。国安法に加え、最近ではそれを補完する香港国家安全条例が施行され、香港人は政治的な自由がほぼなくなり、中国のことについて表立っては何も言わなくなった。しかし、19年の逃亡犯条例改正案に関連して主催者発表で100万人や200万人のデモを起こした民主化を求める政治的信条が大きく変わったわけではない。イデオロギーを支持していなくても、経済活動には与する状態と言える。

 香港の歴史は、清朝、英国、日本、英国、中国と統治者が頻繁に変わってきた。その中にはアヘン戦争や第1次、第2次世界大戦も含まれており、彼らの最優先事項は生き延びることにある。これがDNAに組み込まれており、彼らは超がつく現実主義者だ。

バリケードの奥で香港の中国返還式典が開かれた。周辺が厳戒態勢だった

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