治安機関出身のプーチン大統領も同様に、政権幹部らの忠誠心を高めるために、対象者の〝弱み〟を握り、恐喝する手法を取り入れていると指摘される。治安機関員であれ、政治家であれ、そのような強い〝忠誠心〟を持つ人間こそ、プーチン政権の力の源泉だといえる。
逆に言えば、そのような人員を守ることができなければ、プーチン政権の求心力は瓦解する。ましてやその人員が、指示された作戦に成功したのだとすれば、プーチン氏はその人物を絶対に救わなくてはならない。さもなければ、国を統治する最大の権力である治安機関の信頼を勝ち取ることはできない。
厭戦ムードへの対応
ウクライナ侵攻をめぐっては、すでに開始から2年半が過ぎ、さらにこの身柄交換の直後にはウクライナ軍がロシア国内への越境攻撃を本格化させるなど、ロシア国内での厭戦ムードの高まりは疑いようがない。そのような状況の国内を引き締めるためには、治安機関の役割は一層重要になる。
海外での〝重要任務〟を遂行して成功させた治安機関員を守るというプーチン政権の狙いが、今回の大規模身柄交換につながったことは疑いようがないだろう。
ただ、今回の大規模身柄交換では、米紙ウォールストリート・ジャーナルのゲルシコビッチ記者のほか、ロシアの野党指導者であるイリヤ・ヤシン氏、ロシアの人権団体「メモリアル」の幹部だったオレグ・オルロフ氏など多数の記者や反体制活動家らがロシアから解放された。米政府によれば、ロシア側が解放したのは16人で、米国などは8人(さらに、子供2人)だった。
人数だけで単純な比較はできないが、プーチン政権が治安機関員の解放をことさらに執着した事実は、治安機関に深く依存するプーチン政権を取り巻く状況を改めて浮き彫りにしている。