2024年8月17日(土)

BBC News

2024年8月17日

ナタリー・シャーマン、BBCニュース

11月のアメリカ大統領選に向けて、民主党のカマラ・ハリス副大統領は16日、経済政策を主題とした演説を初めて行い、数百万棟規模の住宅新築促進や持ち家取得の支援、食料品の便乗値上げ規制、医療費借金の帳消し、子供税額控除などを公約として掲げた。

激戦州の南部ノースカロライナ州で演説したハリス副大統領は、バイデン政権の経済政策を基礎にしつつ、2021年以降の物価高に対する有権者の不満に応える形で、経済公約を示した。

ハリス副大統領の経済公約には、初めて持ち家を購入する人への頭金の支援や、初めて持ち家を買う人のために住宅を建てる業者への「初の」税控除が含まれる。最大2万5000ドル(約370万円)の頭金支援は、4年間で推定400万世帯が対象になり得ると、陣営は試算している。

ハリス氏は、糖尿病治療薬インスリンの月額薬価を上限35ドル(約5200円)に定めるほか、医療費支払いのための借金帳消し、新しく子供が生まれた家庭への6000ドル(約89万円)の税控除なども約束した。

さらに、食品企業による不当な値段のつり上げを禁止する連邦法の成立を支持し、アルゴリズムを使った不当な賃料「調整」を禁止する連邦法の成立を促した。

副大統領が提案する経済対策の多くは、連邦議会での立法が必要となるため、ハリス氏の提案は議会で膠着(こうちゃく)する可能性がある。

共和党候補のドナルド・トランプ前大統領は、ハリス氏がバイデン政権の副大統領としてすでに3年間、公約を実現する時間はあったはずだと批判し、「どこにいたんだ。どうして実行していないんだ」と述べていた。トランプ陣営は、ハリス氏の公約は「危険なほどリベラル」だとも批判している。

これに対してハリス氏は16日の演説で、「その人が誰を大事にしているか知りたいなら、誰のために闘っているかを見ればいいと思う。ドナルド・トランプは億万長者や大企業のために闘う。私は、働くアメリカ人、中流のアメリカ人が再びお金を手にできるよう、そのために闘う」と述べた。

消費者支援の経済対策

民主党の関係者や支持者は、経済的に苦しむ国民に語りかける存在として、ハリス副大統領がジョー・バイデン大統領よりも説得力を持ち、信頼される存在になってほしいと期待している。

消費者団体「パブリック・シチズン」のロバート・ワイスマン副代表は、ハリス氏の経済計画は「消費者を支援し、悪徳企業と闘う」内容だと指摘。「(バイデン)政権もそういう発言はしていたが、ハリス氏はそれよりはるかに強力な対策を提案している」とい。

世論調査企業「パブリック・オピニオン・ストラテジーズ」のマイカ・ロバーツ氏は、アメリカの有権者は経済問題については長年、トランプ前大統領と共和党の方を信頼してきた経緯があると指摘。インフレはおそらく今後も、民主党にとって難問であり続けるとも指摘した。

「パブリック・オピニオン・ストラテジーズ」はこのほど、米CNBCのため経済問題について超党派の世論調査を実施。ロバーツ氏は調査の共和党側を担った。調査の結果、経済問題に関しては今もトランプ氏の支持率が、ハリス氏を大きく引き離していたという。

「もう1年以上、こういう問題についてはトランプがずっと有利だった」とロバーツ氏は指摘。何か大きな変化がなければ、この差がいきなり埋まったとは「自分には信じがたい」と、ロバーツ氏は述べた。

便乗値上げ禁止や税控除に賛否

食料品の便乗値上げを禁止するというハリス氏の方針は、有権者から支持されるはずだと専門家たちは見ているものの、エコノミストからの批判も出ている。

アメリカではすでに多くの州が便乗値上げ禁止の制度を設けており、ハリケーンなどの緊急時に導入される。

ただし、何を不当な値段つり上げと規定するのか、定義が難しいと一部のエコノミストは指摘。規制の対象を拡大すれば、品不足の際に増産するという企業の判断を委縮させるという逆効果もあり得るという。

米ボストン大学クエストロム・ビジネススクールで市場経済や公共政策、法律などを研究するマイケル・サリンジャー教授によると、自分がジョージ・W・ブッシュ政権の連邦取引委員会で主任エコノミストだった当時、同様の値上げ禁止策が検討されたものの、「当時も悪手だと思ったし、今もそう思う」、「競争市場を規制すれば品不足が起きる。経験上、常にそうだ」と話した。

教授はさらに、ハリス氏のほかの経済対策案も実施には巨額費用が予想され、異論が出るだろうと話す。

たとえば、子供1人当たり最大3600ドルの税控除策は、パンデミックの渦中で連邦議会が一時的に実施したが延長しなかったもので、一部の試算によると実施のための政府負担は1兆ドルを超える。

民主党と共和党のいずれも、多くの有権者に人気の施策を打ち出すいわゆるポピュリズムを追求するようになっている。そのため、税控除策は巨額財源を要するという指摘をよそに、共和党の副大統領候補、J・D・ヴァンス上院議員は、ハリス案よりさらに大規模な税控除を支持している。

サリンジャー教授は、トランプ候補のほかの経済対策も、インフレ対策にはつながらないだろうと話す。

多くのエコノミストは、トランプ前大統領が提案する原油掘削拡大は、国際エネルギー市場において限定的な影響しかもたらさないと予測している。さらに、輸入品に10%以上の関税を課すという前大統領の提案は、おそらく物価上昇につながると警告している。

現状では、アメリカの物価上昇は落ち着きつつある。パンデミック中のサプライチェーンの混乱やウクライナ戦争の衝撃が、後退していることが要因とされる。

アメリカ労働省の労働統計局は14日、7月のインフレ率は前年同月比2.9%だったと発表。7月の伸びは、2021年3月以来の低水準だった。インフレ率は、物価水準の上昇の程度を追跡する指標。

「たとえインフレ率が下がっても、物価はまだ高止まりしている。大勢が批判しているのはそこだし、確かにその通りだが、物価の高止まりは市場原理の自然な作用によるものだ。市場原理の作用を阻止しようとするのは、潮の流れを止めようとするようなものだ。絶対に無理だ」と、サリンジャー教授は話した。

(英語記事 New homes and end to price-gouging: Harris sets economic goals

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c75ndpzedkqo


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