2024年8月16日(金)

BBC News

2024年8月16日

カタール・ドーハで15日、パレスチナ自治区ガザ地区での停戦と、人質の解放に関する合意をめぐる間接的な協議が再開された。アメリカは協議のこの新ラウンドが「順調なスタート」を切ったとしている。イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くガザでは、パレスチナ人の死者が4万人を超えたという。

停戦合意がまとまれば、10カ月におよぶガザでの紛争がイランを巻き込んだ全面的な地域戦争に発展するのを阻止する鍵になると見られている。ただし、協議再開がそうした突破口になるという期待感は薄い。

米ホワイトハウスのジョン・カービー戦略広報担当調整官は、合意の枠組みを実施するうえでの溝を解決するために「やるべきことはたくさん残っている」と述べた。

ハマスは今のところ、ドーハでの間接的な協議には参加しないと表明しているが、ドーハを拠点とするハマスの関係者に仲介役がメッセージを伝えていると言われている。

ハマス幹部は、すでにまとまっている合意の実施に向けた行程が示されることを、ハマスは望んでいると主張。「イスラエルに戦争を続けるための偽りの口実を与える、交渉のための交渉には参加しない」と述べた。

また、行程は、5月末にアメリカのジョー・バイデン大統領が示した合意案に基づくべきだと主張。イスラエルについて、「新しい条件」を追加していると非難した。

5月の合意案には、イスラエルのガザ地区からの撤退や、ガザ北部への住民の制限なしの帰還、人道支援の流入、イスラエル人の人質らの解放などが盛り込まれている。

ハマス幹部はさらに、「新しい条件を加え、以前の合意を反故にしたのはイスラエルだ」と付け加えた。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相側はこれを否定。29点にわたる変更を要求しているのはハマスだと、その要求の詳細を示さずに主張した。

ガザで今も拘束されている人質の親族は、今回の協議は人質の一部を生きたまま解放させる「最後のチャンス」だと呼びかけている。こうした中、イスラエルの交渉団に与えられている権限がわずかに拡大されたと、イスラエル・メディアは報じている。

仲介役はガザとエジプトの境界沿いの土地の支配権や、ガザ北部から逃れたパレスチナ市民の帰還など、協議の妨げとなりうる多数の問題に直面している。

停戦合意に向けた協議は、ハマスの政治指導者で交渉役トップを務めていたイスマイル・ハニヤ氏が先月、イランの首都テヘランで暗殺されたことを受けて中断されていた。

イランはイスラエルへの報復を宣言しており、事態の拡大が懸念されている。イスラエルは暗殺への関与を肯定も否定もしていない。

昨年10月7日、ハマスはイスラエル南部に前代未聞の攻撃を仕掛け、約1200人を殺害し、251人を人質に取った。これを受け、イスラエルはガザで報復作戦を開始した。

ハマス運営のガザ保健省は15日、同地区での死者が少なくとも4万5人に上ったと発表。「世界にとって厳しい節目」だと、国連のフォルカー・トゥルク人権高等弁務官は述べた

ガザ保健省公表の死者数は、戦闘員と民間人を区別していない。そのためイスラエル政府はしばしば異議を唱えているものの、国連機関は全般的にガザ保健省の発表する死傷者数の正確性を受け入れている。

イスラエル軍はこれまでに「1万7000人以上のテロリストを排除」したとしている。また、ガザでの地上侵攻が始まってから330人のイスラエル兵が死亡したと報告している。

協議の参加者は

ドーハでの協議に参加したイスラエル代表団には、同国の対外情報機関「モサド」のダヴィド・バルネア長官や、総保安庁(シンベト)のロネン・バー長官、イスラエル軍の人質担当責任者ニッツァン・アロン氏らが含まれると報じられている。

米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官や、カタールのムハンマド・ビン・アブドルラフマン・アール・サーニ首相、エジプトのアッバス・カメル情報長官らも参加した。

米国務省によると、カタールとエジプトの当局者もまた、停戦プロセスの一環として「ハマスとの仲介」を担っているという。

協議再開後、米ホワイトハウスのカービー戦略広報担当調整官は記者団に対し、合意内容が複雑なので、協議は16日も続く可能性が高いと述べた。

また、もはや合意の大まかな枠組みについて協議しているわけではないと強調した。

「大まかには受け入れられている段階にある。どこに溝があるかというと、合意の実施、合意を実施するための個々の筋肉の動きにある」と、カービー氏は詳細は明かさずに説明した。

そして、「残された障害を克服することは可能だ。我々はこのプロセスを終結させなくてはならない」と付け加えた。

バイデン氏が5月末に内容を明らかにした停戦案は、3段階からなる。第1段階で6週間にわたる「全面的かつ完全な停戦」と、イスラエル人の人質の一部(女性、高齢者、病人や負傷者を含む)の解放、パレスチナ人の囚人の一部を釈放をする。イスラエル軍が「ガザのすべての人口密集地域から」撤退し、人道支援を「急増」させることも含まれる。

第2段階では、「恒久的な敵対行為の停止」の一環として、ハマスが残りの人質を解放し、イスラエル軍はガザから全面撤退する。ただ、撤退は交渉の対象となる。

第3段階では死亡した人質の遺体が返還され、ガザの大規模復興計画が開始される。

ハマスは参加せず

ハマスはイスラエルやイギリスなどからテロ組織に指定されている。その政治指導部の大半はドーハを拠点にしているが、ハマスはドーハでの協議には参加しないと、同組織の高官の1人は14日にBBCに語った。

この高官は、イスラエルが「新しい条件を追加し、以前の合意を反故にした」と主張した。

米紙ニューヨーク・タイムズは13日、イスラエルが7月27日付の書簡で、バイデン氏が5月末に提示した合意案に5点の条件を加えたことを示す、未公表文書の存在について報じた。

それによると、5月の提案では「ガザ地区の全域で、イスラエル軍を境界沿いの人口密集地から東に撤退させる」となっていたが、7月の書簡はイスラエルが引き続きフィラデルフィ回廊を支配することを示す地図が含まれていたという。

同紙はまた、イスラエルがガザ北部への住民帰還について、非武装の民間人だけがイスラエルの支配するネツァリム回廊を通って戻ることができるメカニズムを確立すべきと、追加で求めたと報じた。

この報道に対し、イスラエルの首相府は声明を発表。ネタニヤフ首相が新たな条件を付け加えたというのは「虚偽」だと主張した。そして、「ネタニヤフ首相の7月27日付の書簡は追加条件を示すものではなく、(バイデン氏が発表した)5月27日付の提案に矛盾するものでも、それを損なうものでもない」とし、「本質的な明確化」をしたまでだと述べた。

「もうたくさんだ。私たちはガザ市の家に戻りたい。毎時間、どこかの家族が殺されたり、家が爆撃されたりしている」と、中部デイル・アル・バラフに避難しているパレスチナ人女性のアヤ氏はロイター通信に語った。

「私たちは今度こそと期待している。今度実現できるのか、それとも永遠に無理なのか、不安に思っている」

人質の解放は

今もガザで拘束されている人質の家族は、時間がなくなってきているとの思いから、テルアヴィヴで「合意をまとめろ」と声を上げた。

イスラエルによると、ガザには人質111人が残っており、うち39人は死亡したと推定されている。

ハマス軍事部門のスポークスマン、アブ・ウバイダ氏は声明で、人質のイスラエル人男性がハマスの警備員に射殺されたことについて、詳細を明らかにした。ウバイダ氏によると、この警備員は、自分の2人の子供がイスラエル軍に殺害されて「殉職したとの知らせを受け、指示に背いて報復的な行動をとった」という。

イスラエル軍は12日、人質殺害に関するハマスの初期の声明について、ハマス側の主張を肯定あるいは否定できるような情報はないとした。

ハマスは15日にも、「不幸な出来事」で殺害されたとする別の男性の遺体の画像を公開した。

イスラエル軍は、この画像に写っているのは昨年11月にイスラエル部隊が「遺体を収容した人質」だとした。

被害者家族の団体「人質・行方不明者家族フォーラム」は、男性はオフィル・ツァルファティ氏だとし、「重要なのは、(交渉の)代表団が成功を収め、合意をまとめて帰国するためにあらゆる手だてを尽くすことだ。誰もが、今すぐ帰国する必要がある」と、同氏の母リシェル氏が述べたとした。

イランとの対立

アメリカなどは停戦合意を、戦闘を止めて人質を解放する手段としてだけでなく、イスラエル奇襲の首謀者の一人だったハニヤ氏の暗殺をめぐり、イランによるイスラエルへの報復を阻止する手段としても見ている。

ハニヤ氏殺害を受け、ガザ地区における指導者の地位はヤヒヤ・シンワル氏が8月に引き継いだ

イランが支援するレバノンの武装組織ヒズボラも、7月のレバノン・ベイルートへのイスラエル軍の空爆で同組織幹部が殺害されたことをめぐり、イスラエルに報復を行っている。

同月末には、イスラエル占領下のゴラン高原にあるサッカー場にロケット砲が着弾し、12人の子供や若者が殺害された。イスラエルはヒズボラによるものだと非難している。

イスラエルは「いかなる侵略にも重い代償を払わせる」とイランに警告。一方でイランは、「侵略者に対する懲罰的対応は合法的な権利」だと主張している。

ホワイトハウスのカービー氏は、アメリカとその同盟国は「イラン政府から発せられるレトリック」を真剣に受け止めなければならないと述べた。

イランの考えを変えるような決定はされていないとしたうえでカービー氏は、「前触れがほとんどか全くないまま、攻撃があるかもしれないと、数日前にそういう情報を得た。もちろん、数日以内の攻撃もあり得る。なので、備えておかなくてはならない」と話した。

(英語記事 High-stakes Gaza ceasefire and hostage release talks resume in Doha

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cn5rxkn1n6yo


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