イアン・アイクマンBBC記者、ジョナサン・ビールBBC国防担当編集委員
ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官は15日、ロシア西部クルスク州で「ウクライナが支配する地域」に、現地の行政機能を担う軍事行政司令部を設置したと明らかにした。総司令官はさらに、ウクライナ軍がクルスク州で前進したと政府の会議で報告した。
ウクライナ政府がオンラインに投稿した動画で、シルスキー司令官はウォロディミル・ゼレンスキー大統領に、「ウクライナが支配する地域」でウクライナ軍が、「現地住民が今すぐ必要とすることに応え」「法と秩序を維持する」ため、ウクライナ軍による行政司令部を設置したと報告した。
シルスキー司令官はさらに、15日にはウクライナ軍がさらにクルスク州で前進し、国境から35キロの地点まで到達したと報告。82集落を含む1150平方キロの面積を掌握したと説明した。
ロシア政府のアンドレイ・ベルソウフ国防相は、クルスク州の住民の「安全を守る」ため、ロシア軍の部隊を増派すると述べている。
ウクライナ軍のクルスク州侵攻は10日目。2022年2月にロシアがウクライナ全面侵攻を開始して以来、ウクライナ軍がこれほどロシア領内に入り込むのは初めて。
ただしウクライナ政府は、ロシア領土を「征服」しようとしているわけではないと述べている。
ウクライナ外務省のヘオルヒイ・ティキ報道官は14日の時点で記者団に、「公正な平和の回復」に合意するよう、ロシア政府に圧力をかけることが、ロシア領内侵攻の目的だと話した。
ロシアは国境地帯の警備強化
ロシア国防省は、ウクライナとの国境地帯の住民やインフラを守るため「追加策」の計画を立案したとしている。
これには、クルスク州に隣接するベルゴロド州の「部隊管理」を改善することも含まれるという。同省が通信アプリ「テレグラム」に説明の動画を公表した。
国営インタファクス通信によると、この計画は国境地帯にあるブリャンスク州にも適用される。
ロシア政府はベルゴロド州でも連邦レベルの非常事態を宣言している。国営タス通信によると、12日には同州のクラスナヤ・ヤルガ地区から1万1000人が避難した。
ロシア政府は他方、掌握された領地の一部はすでに奪還したと主張している。国防省は、クルスク州のクルペッツ地区を奪還したと述べた。
イギリス提供の戦車使用
イギリス政府筋はBBCに、ウクライナのロシア侵入にはイギリス政府が提供した戦車も使われたと明らかにした。
イギリス国防省は、具体的にどのイギリス提供兵器が使われたかは明らかにしていないものの、「ロシアの違法な攻撃に対して自衛するため」イギリスが提供した武器を使う権利がウクライナには明白にあると述べた。
イギリスは昨年、他の西側諸国に率先して、チャレンジャー2戦車を14台、ウクライナに提供している。ただしそれは、ウクライナが自国領を取り戻すためという条件付きだった。
イギリス国防省は、政策に変更はないと強調している。
アメリカやドイツが提供した兵器も、ウクライナのロシア侵入に使われている。
どの西側諸国も、自国が提供した兵器がロシア侵攻に使われていることに不満を示していない。ただし、ウクライナ軍の作戦展開が極秘だっただけに、ウクライナの意図を各国政府が事前に承知していた可能性は低い。
今後ロシアがどう反応するのかについて、西側政府の間で懸念が高まる可能性もある。
ロシア政府はすでに、ウクライナによる侵入の背後には西側がいると非難している。西側の兵器が使われていることを、ロシアがその証拠として挙げる可能性もある。
核保有国ロシアはこれまでも何度か、核兵器を使う可能性をちらつかせてきた。
ただし、ロシアが「越えてはならない一線」と示した条件をすでに、西側諸国はいくつか越えている。たとえば、ロシアはそもそも西側に、ウクライナに戦車を提供するなと求めていたが、西側はウクライナに戦車を提供した。
それでも西側諸国は、自分たちが提供した長距離ミサイルでロシア領内を攻撃してはならないと、ウクライナに再三くぎをさしている。
米英仏は長距離ミサイルを提供しているが、使用範囲をウクライナ領内に限定している。これには、ロシアが2014年に違法に併合したクリミアも含まれる。
ゼレンスキー大統領はこれまで繰り返し、この制限を解除するよう西側に求めている。