2024年8月22日(木)

BBC News

2024年8月22日

大井真理子、アナベル・リャン(BBCニュース)

コンビニエンスストアチェーン「セブンイレブン」の親会社、セブン・アンド・アイ・ホールディングスがカナダの同業大手から買収提案を受けたという速報が入った時、日本に衝撃が走った。

日本のこれほどの規模の大企業が、外国企業に買収されたことはかつてない。これまで、日本企業が外国企業を買収することの方が多かった。

セブンイレブンは世界最大のコンビニチェーンで、世界20カ国・地域で約8万5千軒の店舗を展開している。

安くておいしいコンビニ食品を、すでに多くの人気レストランがある日本やタイで売ることに成功してきた。

買収提案を受ける前にBBCが行ったインタビューで、同社の井阪隆一社長は、「マクドナルドさんとかスターバックスさんよりも店舗数は圧倒的に多いんです」と、誇らしげに話していた。

8万5000店舗のうち約25%は日本国内に、約1万店はアメリカにある。

ビッグ・プレイヤー

一方で、カナダ・ケベック州に本社を持ち、「サークルK」などを展開するアリメント・クシュ・タール(ACT)は、31カ国に1万7000店舗を持つ。その半分以上は北米にある。

ACTから買収提案を受ける前、セブン・アンド・アイの時価総額は約4兆5000億円だった。買収提案が発表された19日に、株価は20%超、上がった。

アナリストらは、昨今の円安の影響で、同社が手の届く範囲の値段になったと指摘する。

円安以外にも、日本政府による買収・合併(MA)を推進する努力が身を結んでいると、香港のヘッジファンド「マソキャピタル」のマノジュ・ジェイン氏は話す。

しかし、この買収案はまだ予備段階にあり、潜在的な取引規模を考えれば、競争当局に精査される可能性がある。

日本のコンビニは訪問客の間でブームを起こしている。海外ではコンビニとは、主に急いでチョコレートやポテトチップスを買うための店だが、日本のセブンイレブンは、おにぎりやサンドイッチ、調理済みのパスタ、フライドチキンや肉まんなど、多くの食べ物を売る。

こうしたセブンイレブンの食品は、同チェーンをアジアにおけるソーシャルメディアの人気スポットに変えた。

セブンイレブンに行くことは、タイでするべきことのトップに入るとされ、ハムチーズトーストはTikTokでの大人気商品となった。

著名人が同チェーンを訪れる動画も、その人気を後押ししている。英歌手エド・シーラン氏が、タイのセブンイレブンで購入したスナックを試す動画は広く拡散された。

https://www.tiktok.com/@edsheeran/video/7335420110322109728

セブン・アンド・アイは、投資家からいくつかの事業を売却し、セブンイレブンのブランドに集中するよう圧力を受けている。こうしたなかで井坂社長は、日本やアジア諸国での戦略を使い、その成功をアメリカや欧州でも再現したいと語った。

同社は現在、より多くの店舗が日本の店舗と同じアプローチをとれるよう、戦略を更新しているという。

「展開する20カ国・地域間の格差が大きくなってしまっているというのが実態です」と、井坂氏は話す。

「1日1店舗あたりの来店客数が多い地区は、フレッシュフードの功績が高いという特色があります」

「私たちは質の伴った成長をしたいと思っているので、単なるお店の数を追い求めるだけではなく、お客様に評価を頂いて、喜んで消費して頂けるフレッシュフードを強化することで、1日1店舗あたりの売り上げ客数を伸ばしながら、店舗数の成長も同時に図っていきたいと考えています」

アメリカのルーツ

セブン・アンド・アイもまた、買収という買い物を続けてきた企業だ。

今年1月にはアメリカの中堅コンビニチェーン「スノコ」から、コンビニとガソリンスタンドの計204店舗を取得。4月には、オーストラリアでコンビニ事業を展開する企業を、1600億円余りで買収した。

同社の1世紀近くにわたる歴史の大半は、アメリカのブランドだった。1927年、当時の冷蔵庫を冷やすための氷を売る専門店として生まれ、その後、卵やミルク、パンなどの日常必需品も売り始めた。

当時の営業時間が午前7時から午後11時だったことに、その名前の由来がある。

アメリカ以外でもフランチャイズ契約を始め、1974年に日本のイトーヨーカ堂が、当時のセブンイレブンの運営会社サウスランドとエリアサービスおよびライセンス契約を結び、日本1号店をオープンした。

イトーヨーカ堂は1991年、サウスランドの株式を取得し、経営に参画した。

昨年98歳で亡くなったイトーヨーカ堂の創業者、伊藤雅俊氏は、セブンイレブンを国際的企業にした第一人者だといわれている。

イトーヨーカ堂は2005年、セブン・アンド・アイ・ホールディングスに社名を変更したが、「アイ」がアルファベットの小文字の「i」なのは、イトーヨーカ堂と伊藤氏にちなんだものだ。

今回の買収提案で、セブンイレブンは北米のルーツに戻る可能性も出てきた。また、日本のその他の大企業も今後、買収のターゲットになる可能性があると指摘するアナリストもいる。

前出のジェイン氏は、「日本の経営陣が外資のアプローチを受け入れる体制ができあがってきた」と指摘する。

日本企業が海外からの買収提案を受けることも、まれではなくなるかもしれない。

(英語記事 Why retail giant 7-Eleven is on a rival's shopping list

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c7v5l478p7zo


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