2024年8月22日(木)

BBC News

2024年8月22日

11月のアメリカ大統領選に向けた民主党の全国党大会は21日、3日目を迎え、ミネソタ州のティム・ウォルズ州知事が副大統領候補の指名を受諾した。下院議員になる前は高校のアメフト監督だったウォルズ知事は、「Coach Walz(ウォルズ監督)」と書かれたプラカードで埋め尽くされた会場を前に、「今は第4クオーターで1ゴール負けているが、次はこちらのオフェンスだから、ゴールへ突き進む」と力説。11月5日の投票日まで残された76日間で徹底的に闘おうと、会場を埋める民主党関係者を盛り上げた。

カマラ・ハリス副大統領に選ばれるまではアメリカ国内でも知名度の低かったウォルズ氏は、ネブラスカ州の小さな町で生まれ育ち、17歳から24年間にわたり州兵として仕えたことや、ミネソタ州で公立高校の社会科教師とアメフトコーチを経て、生徒たちに促されて連邦議会の下院議員を目指したのだと語った。

「40過ぎの高校教師で、小さい子供たちがいて、政治経験ゼロで資金もないまま、共和党が強力な選挙区から出馬」したものの当選した知事は、「公立校の教師を絶対に甘く見ないほうがいい」と力説。これに会場の人たちは大歓声を上げた。

「小さい町で育つというのは、住民がみんなお互いを支え合うということだ。考え方が違ったり、どうやって祈るか、だれを愛するかが違っても、同じご近所さんなんだ。お互いがお互いを支え合う。全員に居場所があって、何かしら貢献する責任が全員にある」という自分の基本的な考え方を知事は説明した。

下院議員としての12年間で多くを学んだ後にミネソタ州知事になった自分は、中産階級のための減税や医療費削減、犯罪対策や安価な住宅提供に取り組んだと説明。さらに「うちの州の子供は全員、学校で朝食と昼食が食べられるようにした。よその州が学校で本を禁止している間、うちの州では学校で飢えを禁止していた」のだと言うと、再び大きな歓声が上がった。

「余計なおせっかいはやめろ」

さらに、ミネソタ州では女性が生殖に関して自ら選ぶ権利を保護したと説明し、「それはご近所さんを尊重し、それぞれの個人的な選択を尊重するからだ。それに、自分では同じように選ばないとしても、金科玉条というものがある」と知事は前置きしてから、共和党に対してかねて繰り返してきたように「余計なおせっかいはやめろ」と強調した。

ウォルズ知事は、共和党が女性の生殖選択権を奪おうとしていると警告。妊娠の人工中絶だけでなく不妊治療にも介入しようとしていると述べ、自分と妻グウェンさんが第一子の娘ホープさんを授かるために不妊治療で苦労した経験をあらためて語った。そのうえで知事は「ホープ、ガス、グウェン。みんなは私の世界の全てだ」と会場の家族に語りかけると、中でも高校生の息子ガスさんは涙ながらに立ち上がり「あれが僕の父さんだ」と拍手していた。

知事は、自分の家族をどうやって作ったか説明したのは、この選挙の大きなテーマが自由だからだと説明。共和党が「自由」と言う時は国民の医療に介入し、大企業の横暴を許すという意味だが、自分たち民主党は「自分や愛する人のためにより良い生活を作る自由、自分の医療は自分で決める自由。そして、子供たちが学校の廊下で撃たれて死なずに済む自由」を意味すると述べた。

自分は「多くの共和党議員より射撃が上手だ」と続けた知事は、自分は武器の保有権を保障する憲法修正第2条を支持するものの、「第一の責任は子供たちの安全を守ることだ」として、「子供たちへの責任、お互いへの責任、みんな一緒に築いている未来への責任が、それが一番大事なことだ」と主張。「自分が望む人生を誰もが自由に築くことのできる、そういう未来を私たちはみんなして築いている」のだとも述べた。

知事は共和党のドナルド・トランプ候補について「リーダーとは何か」わかっていないとして、「1日中たえず他人を侮辱したり、何もかも他人のせいにするのは、リーダーじゃない。リーダーとは、働くものだ(中略)だから自分はあの連中について、もうページをめくる用意ができる」と述べ、「もう後戻りしない」と会場と共に連呼した。

自分たちはトランプ候補という「ページをめくり」、前進し、「労働者が優先され、医療と住宅は人権だと認められ、政府が自分たちの寝室に入ってきたりしない」国を築き、「お前の居場所などないと決して誰も言われない」アメリカにするのだとウォルズ知事は強調。そのために、ハリス副大統領が「全員のために立ち上がり、あなたが求める人生を送る自由のために闘う」のだと力説した。

「後戻りしない」

ウォルズ知事の受諾演説に先立ち、この日はビル・クリントン元大統領やナンシー・ペロシ元下院議長といった民主党重鎮のほか、副大統領候補として有力視されたジョシュ・シャピロ・ペンシルヴェニア州知事やピート・ブティジェッジ運輸長官が次々と演説した。民主党支持者として名高い人気司会者オプラー・ウィンフリー氏も演説し、合間合間にスティーヴィー・ワンダーさん、ジョン・レジェンドさんといった大スターたちが曲を披露した。

クリントン元大統領はジョー・バイデン大統領が「パンデミックと経済危機の最中に就任し、病気の人をいやしてほかのみんなに仕事を与えた。その上、政治家にとっては本当に難しいことをした。ジョージ・ワシントンと同様、自分の政治権力を自ら手放した」とたたえ、「向こうの政党で起きていることと実に対照的だ」と述べた。

クリントン氏は自分は78歳になったばかりだとして、「うちの家族で最高齢だが、見栄を張るとするなら、自分はまだドナルド・トランプより若いんだよ」と会場の笑いを誘いながら、トランプ候補の年齢を強調した。

元大統領はさらに、トランプ候補が「自分のことしか考えていない」のに対して、ハリス氏は常に「みんなのことを考えている」と述べ、今年の選挙では、経済を強化し「自分の夢を追いかける機会を確実に、すべてのアメリカ人に提供する」候補が誰なのか、「選択肢はかなりはっきりしていると思う」とハリス氏への支持を呼びかけた。

2021年1月6日の連邦議会襲撃事件の最中に下院議長だったペロシ氏は、トランプ候補が「臆面もなく」アメリカ民主主義の基盤を破壊しようとして、大統領としての自らの誓いを進んで破ったと非難。「誰が1月6日に民主主義を襲撃したのか、忘れないようにしましょう。襲ったのは彼です。誰があの日、民主主義を守る手助けをしたのか、忘れないようにしましょう。私たちです」と述べ、「私たちはあの日、アメリカの民主主義が勝利したと、アメリカと世界に示した」のだと強調した。

ペロシ氏は、「私たちは自由で公平な選挙を信じ、平和的な権力移譲を信じるリーダーを選ばなくてはならない」と述べ、11月の選挙で民主党が連邦議会の上院と下院とホワイトハウスを掌握するよう「勝利へ向かいましょう」と会場を盛り上げた。

ウィンフリーさんは、「本は危険で、半自動小銃が安全だと、そう思わせたい」相手との選挙だと述べ、「ナンセンスではなく常識を選びましょう。カマラ・ハリスとティム・ウォルズは、まともで敬意にあふれた人たちだと、常識は私たちに教えてくれる」と支持を呼びかけた。ウィンフリーさんが「もう後戻りはしない」と力強く告げると、会場は同じスローガンを連呼した。

暗闇ではなく進歩

副大統領候補に有力視されていたシャピロ知事は、もしトランプ前大統領が再選されれば国民の権利や自由を取り上げると警告した。

「自由をまとうふりをしているが、彼が提示するのは自由でも何でもない」とシャピロ知事は激しい口調で非難。「どういう本を読んではいけないと子供に言うのは、自由などではない。女性に、自分の体をどう使うべきだと言うのは自由などではない。それになにより、投票してもいいが勝者を選ぶのは自分だなどと言うのはまったく自由とはかけ離れている」と強い調子で続けると、会場からは大きな拍手がわいた。

「混乱や過激主義の国になるのか。それとも誠実で名誉のある、進歩し続ける国への道を選ぶのか」とシャピロ知事は言い、ハリス副大統領は「そのキャリアを通じて進歩を実現してきた」と支持を呼びかけた。

同様に副大統領候補の一人とみられていたブティジェッジ長官は登壇するなり、「自分がまさかこんなことを言うとは思わなかったけれども」と前置きし、「僕はピート・ブティジェッジ。FOXニュースに出ていたので、ご存じかもしれません」と会場を笑わせた。ブティジェッジ氏はこのところ保守派FOXニュースにしきりに出演し、民主党側の主張を丁寧に説明しており、そのコミュニケーション能力が民主党支持者の間で高く評価されている。

ブティジェッジ氏は、「自分は良いことのためならどこへでも行く」と述べたほか、共和党の選挙戦は「一言で言い表せる。暗闇だ。向こう側が国民に売りつけようとしているのは、暗闇だ。自分は今のアメリカで取引されているのが暗闇だとは、まったく信じない」と主張した。

さらに「25年前にはこの世に自分の居場所が見つかるんだろうかと不安なティーンだった」と、同性愛者の自分が、今では夫と一緒に幼い子供たちを育てているのだと話した。続けて、「自分のような人生はかつては不可能だったが、それが可能になって、可能から現実になって、さらに現実からほとんど普通なことになった。人生の半分もたたないうちに」とアメリカ社会の変化について語ると、会場は大拍手を送った。

ブティジェッジ氏は、「これはただそうなったのではなくて、努力を通じて実現したことだ。理想主義と勇気を通じて。まとまって活動し、周りを説得することで」と述べ、行動することの重要性を強調した。

11月に自分たちが選ぶ機会を与えられたのは大統領と政策だけでなく、「より良い自分自身に呼び掛けてくれる、より良い毎日を自分たちに提供してくれる、そういう政治を選ぶ」ためで、「それこそカマラ・ハリスとティム・ウォルズが体現することで、民主党が体現することで、トランプの暗闇の政治をここで一気に終わらせるとアメリカが決めた時に待ち受けているものだ」と、勝利への期待を示した。

(英語記事 Tim Walz accepts VP nomination, telling Democrats 'we're not going back'

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cnvy70g9297o


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