2024年11月21日(木)

Wedge OPINION

2024年9月6日

 自民党の古い体質維持に一役買っている存在に触れなければない。

 メディアの多くは、麻生派を除いてすべて解散、解消されたにもかかわらず、いまだに、「岸田派」「茂木派」など以前の呼称を続けている。テレビのワイドショーに登場するコメンテーターなどと称する人たちも同様だ。

 自民党の歴史の中で、これまでも何度か派閥が解消されたことはあり、メディアはそのたびに「旧〇〇派」などと正確を期してきたが、今回は対応が異なっている。正式解散には総務省への届けが必要で、資金の清算など残務整理も残っているので、と説明する向きがある。

 理解できなくはないが、そこまで手続きにこだわるのはどうだろう。重要なことは、派閥解消が宣言されたことであって、後始末ではない。

 すでに総務省に政治団体の解散届を出しているところもあり、今後は「旧」を冠するにしても、いまさらという印象はぬぐえない。実態として派閥が存続しているなら、むしろそれを糾弾すべきであって、旧来の名称を継続するのは、筋違いだろう。

 議員諸氏と同じ土俵にのって永田町政治の取材に血道あげるメディアも大いに頭を冷やすべきだ。

政策論争の場作り盛り上げを

 12日の告示、27日の投票に向けて選挙戦は熱を帯びてくる。肝心の政策論争はどの程度盛り上がるか。

 各候補ともそれぞれ独自の政策を発表、地方遊説などで訴えてはいるが、それをめぐる論争が活発化する気配はいまのところ、それほど高まるにいたっていない。わずかにここにきて、金融所得課税、物価対策など経済政策での高まりを見せ始めてきたのは好ましい変化だろう。

 米国では現在、11月の投票に向けて、長く曲折のあった大統領選が大詰めに入りつつある。むろん相手候補に対する非難、中傷合戦は少なくないが、景気対策、移民問題、人工妊娠中絶、外交・安全保障などで日本よりはるかに熱い論戦が展開されている。ハリスVSトランプの今回にとどまらず、いつの選挙でも同様だ。

 長丁場の大統領選では、選挙イヤーの年明けに始まる予備選、またはそれ以前から、候補者となりうる顔ぶれによるディベート(討論)が繰り返し行われる。その過程で各候補は自らの政策を有権者に問い、ナンセンス、不人気な政策を掲げる候補者は淘汰されて姿を消していく。

 自民党総裁選でも告示後、各候補による討論の機会が設けられるだろうが、米国方式にならって各候補が名乗りをあげた早い時期から各氏が有権者に政見を披歴し、互いに論争する機会が設けられてもよかったのではないか。

 真摯な議論を通じてこそ、岸田首相が退陣会見の時に語った「新生・自民党を国民の前にしっかり示すこと」を有権者に実感させることができるだろう。

故小渕恵三氏との対話

 古い話で恐縮だが、筆者はかつて、故小渕恵三首相が官房長官時代、〝番記者〟として、そのもとに出入りさせてもらったことがある。

 当時はまだ中選挙区制の時代。ある時、小渕長官が「小選挙区制になったら、派閥はなくなる」と断言した。「内閣総理大臣を国会議員から選ぶ制度がある限り、形は変えても派閥は存続するのではないか」と水を向けたところ、「そんなことはない。いやなくならなければならないんだよ」と譲らなかった。「なくならなければならない」に力がこもっていた。

 考えてみれば、自らも55年体制のなかで育ち、活躍してきたものの、その不条理、不合理さに気がついていた小渕氏の強い期待、願望だったのではないか。

 今度の総裁選の展開を見るにつけ、旧態依然たる実態を、泉下の小渕氏はどうみているだろうか。聞いてみることができないのが残念だ。

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