さかんな旧弊打破と逆行する動き
しかし、現時点までの動きを見ると、旧来の派閥単位、人間関係のしがらみが、選挙戦の大きな要素になっているように思えてならない。
一例をとってみると、党内に唯一残る派閥、麻生派が8月27日、研修会を開いて、「同じ釜の飯を食べてきた河野氏を同志としてしっかり応援していきたい」(会長の麻生太郎副総裁)と申し合わせた。
他派閥すべてが解散しているにもかかわらず、夏休み中に研修会を開いて総裁選に向けて気勢を上げるーー。まさに55年体制時の年中行事であり、令和の今、みせつけられるとは思わなかった。
その河野氏本人にしても、不可解な発言で周囲をびっくりさせた。総裁選に勝利して自分が総理・総裁に就任したら、「党3役や閣僚には派閥を離脱してもらう」という(9月1日のテレビ番組)。
それなら、なぜいま自ら率先して派閥を去らないのか。自力で同じ主張のひとたちを糾合して戦う気構えを持たず、選挙中は派閥の一員として、その支持、応援を受け、首相の座を手中にしたなら、派閥を退会するというのは、あまりに虫のいい話だろう。
メディア、キングメーカーの動きも改革にブレーキ
早い時期に決断した小林鷹之前経済安保担当相は49歳。党内若手の声望を担っていることを考えれば、大いに新鮮さを印象づけた。
しかし、小林氏も、8月中に出演したテレビ番組で、裏金事件をめぐって旧安倍派議員が処分されたことについて、「やりすぎると現場が回らなくなる」と、見直しを暗に主張した。氏を推しているのは同派若手といわれるが、それら勢力の歓心を買い、総裁選での支援を求めるという目論見なら、フレッシュな人物が古い手法に乗ったという皮肉な結果となろう。国民は鼻白むだろう。
世論調査で圧倒的に人気のある小泉進次郎氏は、さらに若い43歳。環境相を一期経験しただけで大きな実績はないが、菅義偉前首相、森喜朗元首相らが後押ししているという。
進次郎氏の政策のどこを評価しての支持なの全く伝わってこない。指導者として適任かどうかではなく、永田町という〝閉鎖社会〟での人間関係の濃淡だけで、総裁選が左右されては、迷惑するのは国民だろう。
退陣した実力者がいつまでもキングメーカー気取りで居座って影響力を行使してれば、「自民党が生まれ変わる」など、はかない期待に終わってしまう。
もっとも自民党総裁選とほぼ同時に行われる立憲民主党の代表選でも、現職の泉健太氏の推薦人(20人)集めが難航し、当選1回の若手議員の推薦人集めも思うように進んでいないという。その一方で、総選挙敗北の責任を取って辞任した枝野幸男前代表、同様に民主党時代、やはり政権を明け渡した野田佳彦元首相が名乗りを上げ、小沢一郎元自民党幹事長の支援を受けているというのだから固陋(ころう)さでは、自民党に勝るとも劣らないが。