フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、8月23日付け社説‘Establishment ‘lawfare’ is holding back Thailand’s economy’で、タイのタクシン元首相の末娘のペートンタン氏が同国首相になったことにつき、タイ経済は、「中進国の罠」に陥っているが現在の支配層はこの問題を顧みないでおり、タイは、民主的に選ばれた勝者が政権を担い、邪魔されずに統治することによってのみ繁栄するであろう、と論じている。要旨は次の通り。
2006年にクーデターで追放されたタクシン元首相の末娘のペートンタン氏が首相になったことで同元首相が再びタイの政治の舵を握ったとみられているが、このことは、現行の憲法体制でのタイの機能不全を示しており、タイ経済を改善するために緊急に必要なアクションを取ることを妨げている。
今回の出来事は、まず憲法裁判所が僅差の判断でビジネスマン出身のセター首相を不適切な人物を閣僚に任命したかどで解職したことに始まる。同裁判所は、その1週間前にはリベラル派で前回の選挙で最大議席を獲得した前進党にも解党を命令している。
セター氏が代表を務めるタクシン元首相のタイ貢献党は、軍が後援する保守派との連立政権を組んでいるが、セター氏の解任後、裏取引の結果、タクシンの末娘のペートンタン氏が代わりに首相となって連立政権は継続する事になった。
王党派と軍部がその支配を維持するための「法律戦」が、(タイの政治に)深刻な機能障害を起こしている。つまり、陰に隠れて統治のための責任は負わない人々がタイを支配している。
全てのことが上手く行っている時は、それでも問題はない。しかし、タイの経済は良くない。タイの経済は、新型コロナからの回復が遅く、一人当たりの国内総生産(GDP)も中国に遅れをとった。
要するにタイは典型的な「中進国の罠」に陥っており、真剣に教育制度の改革、独禁法政策、インフラへのより大規模な投資を必要としている。しかし、政治的な安定性を欠いていては、これらの政策を公に議論することすら出来ない。
セター元首相は、外国からの投資の誘致とともにあまり良く考えたとは思えない景気刺激策をしようとしていた。景気刺激策というのは「デジタル・ウォレット」を通じて275ドルを5000万人のタイ人に支給する事だと理解されている。タクシン元首相の一族は、このような景気刺激策を考え直すべきだ。