しかし、タクシン元首相の選挙の際のウリは、この様なばらまき政策が基本であり、完全に諦めるとは思えない。その一方で、タイが直面する、労働生産性の低さ、経済の多様化が進まない問題、高齢化社会、そして、高い家計債務という深刻な問題に対応する兆しはほとんど見えない。
問題を抱えているタイを表向きはペートンタン首相が対処し、タクシン元首相が舞台の袖から操るが、二人とも、支配層の手のひらの上にいる。タクシン元首相の一族とタイ貢献党は、(ばらまき政策で)選挙での最大の優位を得ようとし、他のことは無視しようとする、残念な誘惑に駆られるだろう。
タイは、民主的に選ばれた勝者が政権を担い、邪魔されずに統治することによってのみ繁栄するであろう。
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コントロール下にある民主化勢力
このFT紙の社説は非常に正鵠を射ている。2006年のクーデターで追放されたタクシン元首相は、首相在任時に30バーツ健康保険制度(30バーツ≒128円支払えば、国公立病院を利用出来るという制度で患者が殺到して医療体制が崩壊の淵に追い込まれた)等のバラマキ政策で貧しい層の圧倒的支持を得たのであり、昨年の選挙で政治改革を訴える前進党に最大議席を奪われたことに対して、「デジタル・ウォレット」のような得意のバラマキ政策で最大議席の奪還を画策したとしても驚かない。
長年、タクシン元首相は民主化を求める層と貧困層の支持を得ていたが、前者は、前進党に代表される新興民主化勢力に徐々に奪われ、特に、今回、タクシン元首相の帰国と引き換えにタイ愛国党が保守派・軍部と連立を組んだことにより、民主化を求める支持層は決定的に離反したのではないだろうか。従って、「デジタル・ウォレット」を強行しても第1党を奪還するのは難しいかも知れない。