2024年9月11日(水)

BBC News

2024年9月11日

アメリカで11月にある大統領選挙のテレビ討論会が10日夜、東部ペンシルヴェニア州フィラデルフィアで開かれた。与党・民主党候補のカマラ・ハリス副大統領と、野党・共和党候補のドナルド・トランプ前大統領が約1時間半にわたり意見を戦わせた。

両候補が直接、対面して言葉を交わしたのは初めて。11月5日の投票日までにこれ以上の討論会は今のところ予定されておらず、どちらが大統領にふさわしいか、有権者が両者の言動を比べながら判断できる数少ない機会になり得るとして注目された。

討論会は無観客の会場で、両者がABCのキャスター2人の質問に答えるかたちで進められた。相手の発言中のマイクの扱いについては両陣営が対立し、オフになることが事前に決まったが、トランプ候補を中心に不規則発言の音声がたびたび放送された。

討論会後のCNNの世論調査では、63%がハリス候補が優勢、37%がトランプ候補が優勢だったと答えた。ただトランプ候補は自分にとって「過去最高の討論」の出来栄えだったとして、ハリス候補が「大負けした」と述べた。ハリス陣営は討論会が終わると、2回目の討論会開催を要求した。

大統領候補としての討論会は、ハリス候補は初めて、トランプ候補は7回目だった。

ハリス候補はこの日の討論会で、トランプ候補が質問に答えている間、同候補を直視したり、笑みを浮かべたりすることが多かった。本人に面と向かって「あなたはみっともない」、「うそばかりつくのはやめなさい」と厳しく告げることもあった。

一方、トランプ候補は、ハリス候補とほとんど目を合わせなかった。よく見せるけんか腰の姿勢も示し、指をさしてハリス候補に反論したり、興奮したりする場面もあった。

この夜は以下のトピックなどをめぐって、両候補が意見を交わした。

経済

討論会は「4年前と比べてアメリカ人は暮らしぶりがよくなっていると思うか」という質問で始まった。

ハリス候補は「機会の経済」を作り出すとし、住宅取得費の問題に取り組み、若い家族を支援するとした。また、母親と協力して自分を育ててくれた近所の女性が小規模事業のオーナーだったことに触れ、自分がかねて「情熱を抱いている」小規模事業の支援に力を入れると強調した。

トランプ候補は、外国への関税を強化すると宣言。自らが在任中、中国からの輸入品に高い関税をかけたことに言及し、おかげで米政府は中国から「何十億」ドルもの関税を徴収していると述べた。

ハリス候補はトランプ候補の経済政策について、実行されれば来年までにアメリカで景気後退が起きると、ノーベル賞受賞者のエコノミスト16人が批判していると主張。

これに対しトランプ候補は、自分はビジネススクール出身だと言い、経済学の大学教授らが自分の計画を絶賛していると反論した。

中絶

続いて、今回の大統領選における最重要問題の一つとされる人工妊娠中絶がトピックとなった。

司会者がトランプ候補に、この問題での立場を明確にするよう求めると、トランプ候補はまず、民主党が妊娠「9カ月目」での中絶を認めており「急進的」だと主張。

そして、中絶の可否の決定権を各州に戻すのを助けたと述べた。また、レイプや近親相姦による妊娠は例外とすべきとの考えを示した。

トランプ候補はさらに、州によっては出生後の赤ちゃんの「処刑」を認めていると主張。司会者は、誕生した赤ちゃんの殺害が合法とされている州はないと、その場で否定した。

ハリス候補は、2年前の判決で中絶の権利を覆した連邦最高裁判事のうち、3人がトランプ候補によって任命されていたと指摘。全米で長年にわたり中絶の権利を保障していた重要判例を覆すために、最高裁に保守派判事を送り込んだのだと批判し、その結果としていくつかの州では、「レイプや近親相姦でも例外を認めない『トランプ中絶禁止法』」が可決されたと述べた。

ハリス氏は、「これが人々が望んでいたことだと言うのか?」と問い、中絶手術を受けられないため「駐車場の車の中で大量出血をしている」女性たちがいると主張。「彼女たちはそんなことを望んでいない」と声を震わせた。

不法移民

トピックが移民問題に移ると、ハリス候補は、密入国者を起訴してきた「このステージ上で唯一の人物」は自分だと発言。検察官の経歴をアピールした。

また、超党派の国境警備強化法案を、トランプ候補が台無しにしたと批判。「ドナルド・トランプが議会の何人かに電話して、法案をつぶせと言った。なぜか? 彼は問題の解決ではなく、問題の利用を選んだからだ」と批判した。

トランプ候補は、オハイオ州スプリングフィールドで移民たちがペットの動物を食べているという、根拠のない主張を力説。「連中は犬を食べている。そこに住む人々のペットを食べているんだ」と強い調子で主張した。

これに対して司会者が、同市の当局者はそうした証拠はないと言っていると指摘すると、トランプ候補は、「テレビでいろいろな人が、『うちの犬が連れ去られ、食用にされた』と言っているのを見た」と言い返した。

ハリス候補は、「また極端なことを言っている」と述べた。

スプリングフィールドの当局者はBBCの取材に、ペットが食べられたという「信頼できる報告はない」としている。

ハリス候補は、トランプ候補が「移民犯罪」という主張を展開したのを受け、トランプ候補自身の犯罪歴を取り上げて、同候補を攻撃。「国家安全保障に関する犯罪、経済をめぐる犯罪、選挙妨害で起訴されたことのある人が言うことなので、非常に含蓄がある」と皮肉った。性的暴行をめぐる賠償責任を問われていることや、重罪34件で有罪になっていることにも触れた。

これに対しトランプ候補は、これまで同様、自らの訴追をめぐっては司法制度の「武器化」が起きていると主張。「でたらめの事件だ」とした。

議会襲撃

次に、2021年1月6日にあった、トランプ候補を支持した暴徒らによる連邦議会襲撃事件がトピックとなった。

トランプ候補は、自身の役割について質問されると、襲撃事件前のホワイトハウスでの演説で、支持者らに連邦議会議事堂まで行進するよう指示したと説明。テレビで襲撃を見て、暴徒らに立ち去るよう求めるツイートをしたとした。

また、「平和的に、愛国的にと演説で言った。あとから言ったのではない」とし、演説では暴力を呼びかけなかったと付け加えた。

司会者が「あの日の行動について後悔していることはあるか」と尋ねると、トランプ候補は「演説を依頼されたこと以外、私は何も関係していない」と答えた。また、議事堂の安全確保の責任は、ナンシー・ペロシ下院議長(当時)やワシントン市長にあり、自分ではなかったとも繰り返した。

これに対してハリス候補は、事件当日、上院議員および副大統領に選ばれた人物として議会にいたと説明。「あの日、合衆国大統領は暴徒を扇動し、連邦議会議事堂を攻撃させ、冒瀆(ぼうとく)させた」とトランプ候補を非難した。

また、「まさにそれを理由に、前大統領は起訴され、弾劾された」と述べた。

トランプ候補は、襲撃事件につながった2020年大統領選の結果について質問されると、ジョー・バイデン大統領に勝っていたと主張。「証拠はたくさんある」と、詳細をほとんど示さずに述べた。

そして、「私たちの選挙はひどいもので、不法移民がたくさんやって来て、それらの人たちを投票させようとしている」、「英語も話せないような人たちだ」とした。

一方、ハリス候補は、選挙結果を否定し続けるトランプ候補に、ホワイトハウスに戻るべき「資質」などないと言明。「ドナルド・トランプは8100万人からクビにされた」のだと、トランプ候補がかつて名声を得たリアリティー番組での決めぜりふをもじって批判した。

ガザとウクライナ

続いてハリス候補は、パレスチナ自治区ガザで起きているイスラエルとイスラム組織ハマスの戦争について、どう対処するか、またどうすれば現状を打破できるか、問われた。

ハリス候補は、イスラエルには自国を防衛する権利があるが、どう防衛するかが重要だとする、これまでと同様の発言を繰り返した。そして、「この戦争は終わらなければならない」、「直ちに終わらなければならない」と述べた。

さらに、停戦と、最終的には「ガザ再建」のための「2国家解決」を求めるとした。

トランプ候補は、もし自分がまだ大統領だったら、この紛争は「始まりさえしなかった」と主張。ハリス候補について、「イスラエルが大嫌いだ。もし彼女が大統領になれば、2年後にはイスラエルは存在しなくなっているだろう」と述べた。ハリス候補の夫ダグ・エムホフ弁護士はユダヤ系で、ユダヤ系アメリカ人団体にもかかわっている。

トランプ候補はまた、ハリス候補が「アラブ系の人々も大嫌いだ」とし、「一帯が手に負えなくなっている」からだと主張した。

そして、「私はそれを早く解決する」とし、再選されれば、ロシアとウクライナの戦争も終わると訴えた。

イスラエルの安全保障を繰り返し支持してきたハリス候補は、この主張を否定し、トランプ候補が「分断し、現実から目をそらさせようとしている」と主張。「彼が独裁者に憧れ、独裁者になりたがっていることはよく知られている」とした。

さらに、軍指導者らがトランプ候補を「恥」だと述べていると主張した。

休憩を挟んでトランプ候補は、ウクライナに戦争で勝ってほしいと思っているかと質問されると、「戦争をやめてほしい」と答えた。

そして、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領のことも、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のことも「よく知っている」と述べた。

ハリス候補は、自身とゼレンスキー大統領との間には強固な関係が築かれていると発言。トランプ候補に対し、「NATO(北大西洋条約機構)同盟国は、あなたがもう大統領ではないことにとても感謝している」と述べた。

また、「そうなっていなければ、プーチンは今ごろキーウで座って、ヨーロッパの他の地域に目を向けていただろう」と主張。プーチン大統領は「独裁者で、あなたをこてんぱんにしてしまうはずだ」とした。

トランプ候補は、ハリス候補を「史上最悪の副大統領」だとし、ウクライナとロシアを交渉させて戦争を防げなかったと批判した。

ハリス候補が「あなたのことを各国首脳は嘲笑している」というと、トランプ候補はハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相に高く評価されていると反論。ハリス候補は、トランプ候補が「独裁者にあこがれているのは有名だ」と批判した。

計画はあるか

トランプ候補は、ハリス候補に具体的な政策や計画がないと繰り返し批判した。

他方、討論の後半でバラク・オバマ政権による安価な公的医療保険制度(通称「オバマケア」)を批判し、廃止を検討していると述べたことから、司会者から「何か代案はあるのか」と質問されると、トランプ候補は「自分は大統領じゃない」として、「計画のコンセプトはある」と答えた。

ハリス候補はこれに対して、「具体的な計画の話をしましょう」と主張。自分には具体的な経済政策があると力説し、新規事業経営者への税控除策や、新生児の育児手当、持ち家取得促進のための頭金補助など「私には計画がある」と繰り返した。

総括発言

最後は、それぞれがまとめの発言をした。

ハリス候補は、自分とトランプ候補はそれぞれ、アメリカに対する二つの「まったく異なる」ビジョンを抱いていると主張。自分は未来に焦点を当て、トランプ候補は過去に焦点を当てていると訴えた。

そして、「私たちは後戻りしない」、「私たちは新しい道を切り開くことができる」とした。

トランプ候補は、ハリス候補の政策には何の意味もないと主張。すでに4年近く政権にいながら、そのすべてを達成していないからだとした。

そして、有権者は「なぜ彼女はそれをしなかったのか」と問う必要があると強調。「悪質なビジョンのために国を犠牲にすることはできない」、「私たちの国は失敗している。深刻な衰退に陥っている。世界中で笑いものになっている」とした。

そのうえで、11月の選挙で「この国史上最悪の副大統領」のハリス候補が勝利すれば、第3次世界大戦が起こる恐れがあると付け加えた。

10月1日には、民主、共和両党の副大統領候補による討論会が、CBSニュースの主催で開かれる。

(英語記事 Harris puts Trump on defensive in fiery debate

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c93pr1y0yy3o


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