作品別に見ていくと、いくつかのタイトルが圧倒的な強さを誇っているという。
「ここ最近のトップはダントツで『ONE PIECE(ワンピース)』。そこに『NARUTO -ナルト-』『呪術廻戦』『僕のヒーローアカデミア(My Hero Academia)』『Spy×Family』が続いています。『進撃の巨人』も人気作品です」
日本で絶大な人気を誇る『名探偵コナン』は、フランスではより小規模でニッチな読者層に読まれている、などの違いもある。人気の80タイトルほどの新刊は、日本での刊行直後に翻訳されて書店に並び、それを楽しみに待つ常連のファンたちが、この国の漫画市場を支えている。
一方、23年には従来とは異なる読者層を開拓した作品もあった。スタジオ・ジブリの宮崎駿監督が約40年前に手がけた『シュナの旅』だ。
「フランスでは翻訳版がやっと昨年発売になり、1冊25ユーロ(約4000円)と高価にも関わらず、初年度だけで14万部が売れました。ジブリ映画はフランスでも大人気で、いまや宮崎監督の名は”品質保証”。普段は漫画を読まない人々も、宮崎監督の作品なら、と安心して購入したのでしょう。今年に入っても売れ続け、上半期だけで販売部数は4万5000部に及んでいます」
漫画市場を拡大させた”国家政策”
23年、フランスでは4000万部の日本漫画が売れ、売上高は3億3300万ユーロ(約533億円)。前年比では数字が落ちており、販売部数は18%、売上高は13%減少している。だがファズロ氏は「これが通常規模の数字で、問題には及ばない」と言う。21年・22年の数字が例外的に良すぎたのだ、と。
その理由は、フランス政府の若者向け文化政策にある。マクロン大統領2期目の公約として掲げられ、21年から施行された「カルチャーパス Pass Culture」だ。
この政策は、フランス在住のすべての15歳〜18歳に、文化活動で使えるバウチャーを配布するというもの。専用アプリ経由で各種公演チケットや本、CD/DVD、楽器、画材、ミュージアム入場券の購入のほか、絵画教室などのレッスン料やデジタル新聞の購読料の支払いにも利用できる。
金額は年齢によって変わり、15歳には年20ユーロ(約3200円)、16歳・17歳には年30ユーロ(約4800円)、18歳には年300ユーロ(約4万8000千円)を支給。このバウチャーで、漫画を購入する若者が続出したのだ。
22年の報告書によると、利用者の49%が「カルチャーパス」を漫画に使用。21年の実施初年には、開始から半年足らずで330万冊のコミックスがこのパスで購入された。経済メディア「レ・ゼコー」は地方書店の喜びの声を報道し、なかでも前述の『One Piece』はこの政策によって24万5000部を売り上げたと伝えている。
「カルチャーパス」は現在も継続しているが、漫画に使われる割合は減少しており、24年上半期で全体の30%に留まる。加えて23年にはインフレを受けてコミックスの値段が6%ほど値上げされ、それが売り上げ減に影響しているとする声もある。数字上の売り上げが減っていても、漫画自体の人気は盤石の読者層に支えられているというのが、ファズロ氏の見解だ。