2024年9月18日(水)

WEDGE REPORT

2024年9月18日

 さらに同時期、同じ年齢層を対象に、日本からの家庭用テレビゲームの普及が重なった。この世代の熱愛する作品としてファズロ氏が挙げたのは、鳥山明の『ドラゴンボール』と大友克洋の『AKIRA』。個人的には桂正和の『電影少女』も愛読書の一冊だったという。

 「80年代生まれの私たちの世代にとって、これらの漫画やアニメ、ゲームは『自分たちのもの』と感じられる文化になりました。アメリカ発のエンタメを愛していた父や兄のお下がりではない、パーソナルな愛着を日本文化に抱いたのです。漫画を原語で読みたくて日本語を学び、物語の舞台である日本を繰り返し訪れ旅する人、長期滞在する人が出てきたのも、私たち世代からでした」

 日本政府がアニメ・漫画を軸にした日本製コンテンツの海外普及を「クールジャパン戦略」の名で推進し始めたのは、2010年。フランスでのアニメ・漫画の大流行は、それに10年以上先駆けていたのだ。

フランス人の読書習慣の一つになった漫画

 その90年代を境にフランスでは、日本の漫画作品を輸入販売するフランスの出版社が増えた。当初は日本漫画の専門書店による翻訳出版や、フランスのコミックス「バン・デシネ」の大手出版社が主流だったが、参入が相次ぎ、現代では文学系出版社やインディペンデント系出版社など、日本漫画の仏訳版の版元は20社以上に上る。

 「現在人気タイトルのライセンスは、出版社間で入札合戦となっている状態です。特にヒットが見込める少年ジャンプ系の作品は、獲得争いが加熱しています。有力作品を見つけようと、フランスのバイヤーたちは日本の漫画界に目を光らせています。東京に事務所を構えて漫画家を発掘し、オリジナル書き下ろし作品をフランス発で出版、それをヒットさせて日本に逆輸入する出版社も出ています」

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 それが可能になるくらい、フランスでは漫画は一過性のブームではなく、読書習慣の一つになっている。ジャンルを問わず「好きな本」を尋ねるアンケートでは数年前、漫画『ベルセルク』がランクインしたこともあった。50代より下の世代の男性に『好きな漫画』を尋ねたら、誰もが一人必ず1作品は答えられるはずだと、ファズロ氏は言う。

 「かつての日本の”オタク”のように、アニメ・漫画好きをネガティブに見る目はフランスにもあります。アート性を認めず、親や先生に厭われるカウンターカルチャーとして扱う姿勢です。しかしそれもだいぶ弱まり、大多数の人々はれっきとした文化として漫画を捉えています。

 大学で研究され、公立図書館に並び、親子が一緒に読む。日本ほどではないにしろ、漫画は出版界の大きな一角を担っているのです」

 ある場所では当たり前すぎて価値の見えにくくなっているものが、別の場所で異なる社会背景にマッチして大好評を博す、という現象がある。フランスにおける日本漫画の人気と普及は、まさにその好例だろう。

 今こそ改めてその熱い親愛を、驕らず歪めず、正当に受け止めたい。そうして日本人自身が日本文化の真価を再認識することは、未来へのさらなる発展に繋がっていくはずだ。

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