もっとも、米国は、イランの核開発疑惑以外にも、①同国による民兵諸派への支援を通じたイスラエル権益への攻撃、②弾道ミサイル・ドローン開発の進展も問題視してきた経緯がある。仮に新しい合意が核問題だけを取り上げるものであればよいが、もしこの2点をも含む内容となれば米国が妥協できる余地は限りなく小さくなる。
このため、イラン・米国間での交渉が前進するためには、交渉の適切な時期を見計らうことに加えて、核問題とその他の問題を完全に切り離すことが重要である。
日本はイランとどのような
関係を続けていくべきか
混沌とした状況の中、主要7カ国(G7)でも独自の立場にある日本が果たすべき役割は何だろうか。
一つのエピソードを紹介したい。23年8月、筆者が首都テヘランと南東部の港湾都市チャーバハールを訪問した際、イラン側のカウンターパートから「なぜ日本は米国の経済制裁に準じて、イランでのビジネスを縮小させるのか」と度々詰め寄られる場面があった。他の国は米国の政策にかかわらずビジネスを続けているぞ、とのいわば〝脅し〟である。
ペルシャ商人の商魂たくましい交渉術ともいえるが、日本が米国の対外政策に追従しているかのようにイランの一部の人々の目には映っているのかもしれない。
もっとも、日本とイランの歴史的関係から、ありがたいことに、今でも親日家は多い。日本の自動車・電化製品に対する信頼も厚いものがある。それでも、日本が米国の顔色ばかりをうかがい、対イラン、ひいては対中東外交を疎かにしては国家としての信頼を損なうことになりかねない。日本は原油の9割以上を中東地域に依存しており、中東が原油を売ってくれなくなれば、天然資源に乏しい日本はたちまち立ちゆかなくなることが明白である。
こうした事情に鑑みれば、日本はG7のメンバーとして欧米諸国と足並みをそろえつつも、イランを含む中東諸国からの信頼を勝ち得る外交を展開する必要がある。時として、「白か黒か」ではない微妙な外交上の立ち回りも求められよう。イランとの関係では、従来の歴史的友好関係に立脚しつつ、二次制裁によりビジネスを展開できない制約の中でも、政府開発援助(ODA)を通じた経済協力、学術・研究分野での協力、積極的な広報・文化活動を組み合わせるなど、「日本のプレゼンス」増大に努めることが重要だ。