イランのライシ大統領が5月19日ヘリコプター墜落事故で死亡した。強硬派でならした大統領の突然の不在が権力の空白を生むのは間違いなく、権力闘争が激化するとの見方が強い。何よりもライシ師が最高指導者ハメネイ師の後継者の筆頭候補だっただけに、体制の継承シナリオにも重大な影響を与えよう。ライシ以後のイランの行方を占った。
内外政策に変化が生まれるのか
地元メディアなどによると、ライシ大統領は北西部の東アゼルバイジャン州とアゼルバイジャンの国境地帯で行われたダム開発の落成式に出席した。式典にはアゼルバイジャンのアリエフ大統領も出席した。式典後、ライシ大統領はアブドラヒアン外相らと同じヘリに搭乗、タブリーズに戻る途中に事故に遭い、外相とともに死亡が確認された。
現場は山岳地帯で、事故当時は雨と濃霧という悪天候だったという。一部のSNSではイスラエル諜報特務庁(モサド)による破壊工作とのうわさも出回ったが、イスラエル当局者は同国の一切の関与を否定した。
イランも事故と断定。最高指導者ハメネイ師は「国政に混乱はない」と政権の盤石ぶりを強調した。
ライシ大統領は2021年に就任し、ハメネイ師を頂点とするイスラム体制を支えてきた。検事時代に燃料価格値上げ暴動の際、苛烈な取り締まりで数百人が死亡したことなどから“屠殺者”とまで呼ばれた。大統領就任以降は内外政策で強硬路線を貫いた。
内政的には22年に発生したヒジャブ(スカーフ)着用反対運動が全国的に広がり、聖職者支配を非難するデモなどにつながったが、厳しい弾圧で臨み、力で抑え込んだ。しかし、米国を中心とした制裁による経済苦境を改善することはできず、高インフレや失業問題、通貨リヤルの下落などに苦しんだ。
対外的にはロシア、中国との関係を強化し、特にウクライナとの戦争を続けるロシアにはドローン(無人機)を供与するなど支援した。外交的成果としては、中国の仲介で断交状態にあったアラブの大国サウジアラビアとの国交回復にこぎ着けた。だが、影の戦争を続けてきた不倶戴天の敵イスラエルとは先月、直接ミサイルを互いに撃ち込むなど中東戦争の危機を招いた。