こうした強硬路線のライシ大統領がいなくなった後、内外政策に大きな変化が出るのだろうか。答えは「否」である。大統領はあくまでもハメネイ師の忠実な僕として、同師が下した決定を履行してきたにすぎないからだ。イランは当面、国内の民主化の動きを封じ込め、対外的には米国との対決、中露との関係強化路線を続けていくことになるだろう。
ハメネイ師の後継者争いは次男で決まり?
イランの憲法の規定では、大統領が死去した場合、第1副大統領が大統領代行となる。現在の第1副大統領はモハンマド・モフベル氏で、暫定的に大統領の職責を担う。
今後50日以内に大統領選挙を行い、新しい大統領を選出する運びだ。「護憲評議会」の事前審査を経て立候補者が確定する。
最近の「護憲評議会」の事前審査では、改革派や穏健派に属する候補が排除され、保守派が重視されるようになっているが、大統領の椅子をめぐって保守派を支持する聖職者勢力や革命防衛隊と、ロウハニ元大統領ら穏健派、改革派との間で権力闘争が激化する見通しだ。事前審査が公正に行われれば、国民の反政府感情を背景に穏健派候補が勝利するとの見方が強い。
ライシ大統領が亡くなったことのもう1つの重大なポイントはハメネイ師の後継者争いに決着がついたのではないか、という点だ。85歳という高齢のハメネイ師は病弱と伝えられており、後継者問題は喫緊の課題だ。これまでは愛弟子と言えるライシ師が最有力視されてきた。
もう一人後継者として取り沙汰されてきたのがハメネイ師の次男で、最高指導者事務所を取り仕切っているモジタバ・ハメネイ師だ。両者とも反米、反イスラエルを掲げる保守強硬派だが、政治的な役職を積み重ねてきたライシ大統領が一歩先んじていた。ところが今回の事故が起き、モジタバ・ハメネイ師が最有力候補として躍り出ることになった。
だが、大統領、最高指導者の後継者とも最終的には最大の実力組織である革命防衛隊が決定のカギを握っているとみられている。革命防衛隊は最高指導者の「親衛隊」的な位置付けだったが、今や実際には「ハメネイ師を背後から操っている」(識者)とも称される圧倒的な存在になった。
革命防衛隊は巨額の予算を確保し、さまざまな利権をほしいままにし、監査などは一切受けることがない。事実上、イランの聖域となっている。「革命防衛隊の支持を得た者が大統領や最高指導者の地位を手に入れられる」(識者)といわれる所以だ。