2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2014年1月21日

 内務軍設置を前にしたころ金正日政権は、「対北内部攪乱」作戦やビラ散布による「体制転覆策動」を図っていると韓国の浸透に警告を発している。声明は国家安全保衛部と人民保安省(当時)の連名という形をとっていた(10年2月8日)。これは2つの機関に同列の責任を与える姿勢を示唆する。事実、それから数ヵ月のうちに人民保安省は国防委員会直属の「部」に昇格し、国家安全保衛部と同格になるとともに、強力な権限を持つ内務軍が発足する。

 この間も含め国家安全保衛部長は久しく空席であり、後継作業中は人民保安部の地位向上が著しかったと言えよう。しかし金正恩政権の発足後、保衛部は金元弘を部長に迎え、今回の処刑で大きな役割を果たした。一連の動きは、力関係を修正し続けながら2つの機関を競合させる試みとして合理的である。

 以上のような分散型の統制システムは、唯一の指導者だけが大きな力を行使する後継体制を金正日が遺そうとしていたことを示す。事実、金正恩後継後の2年間、人民武力部長、朝鮮人民軍総参謀長、人民保安部長は短期間に交替した。人民軍を含む対内安全保障の主要組織が、金正恩以外に依存せずに機能することが確認されていくとともに、後見人であるかに見えた人物が次々と去っていった。

 それではどうして張成沢を処刑までする必要があったのだろうか。

 金正恩体制は、韓国から浸透する「改革」志向を敵対概念として人々に認識させる上で、張成沢を最大限に活用したのではないか。既存の社会主義と異なる手法による経済改革も体制生存のため長期的には不可欠である。しかし、それが政治体制としての「社会主義」否定につながれば目的に反する。この危険を避けるべく、経済改革が韓国発の「改革」の受け入れではないと明確にする必要がある。それが張成沢処刑に帰結したのではないか。実際、判決は経済悪化も張成沢が妨害したためだとし、人々に韓国の「改革」概念への敵意を広げようとしている。

 経済改革に伴う浸透の脅威は、軍の統制も脅かしかねない。改革で多様な情報が流入すれば、軍人が支配者に反する政治理念を受け入れる危険が高まる。従って経済改革は統制手段としての先軍政治─軍を政治勢力の一翼として確立する必要性をむしろ強める。

 張成沢処刑後に存在感を増した崔龍海・朝鮮人民軍総政治局長の役割も、軍組織を支配者の政治理念で満たすことにある。金正恩の後継後、目立った軍歴のない崔龍海がにわかに次帥(実質最高位の金正恩・共和国元帥より2つ下)に上り詰めたことが示すのは、文民勢力の軍への浸透に他ならない。


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