グレアム・ベイカー、BBCニュース
イスラエル軍は、パレスチナのイスラム組織ハマスの最高指導者ヤヒヤ・シンワル氏(61)を1年以上にわたって追っていた。同氏は昨年10月7日のイスラエル襲撃を指揮した直後、ガザ地区で姿を消していた。
シンワル氏は、ボディーガードや「人間の盾」(イスラエルで拘束した人質)と共に、ガザ地区の地下トンネルに潜伏していると考えられていた。
しかし最終的には、ガザ南部でイスラエルのパトロール隊と偶然遭遇し、最期を迎えたとみられる。護衛はわずかで、人質は発見されなかった。
シンワル氏の殺害について、詳しい状況はまだ明らかではないが、これまでに以下のことが分かっている。
通常のパトロール
イスラエル国防軍によると、第828ビスラマッハ旅団の部隊が16日、ガザ南部ラファのタル・アル・スルタン地区をパトロールしていた。
その際、3人の戦闘員を発見。交戦の末、全員を殺害した。
この時点では、特に変わったことは見当たらなかった。そのため、兵士らがこの場所に戻ったのは、17日朝になってのことだった。
兵士たちは死体を調べているうちに、その1体がシンワル氏にかなり似ていることに気づいた。
しかし、爆弾が仕掛けられている懸念のため、死体はそのままその場に残し、指の一部を切除。鑑定のためイスラエルに送った。
その後、同日中に一帯の安全を確保した上で、死体を収容。イスラエルへと運んだ。
イスラエル軍のダニエル・ハガリ報道官は、「(同軍は)彼がそこにいると知らずに、活動を続けていた」と説明した。
ハガリ氏によると、部隊は家から家へと走る3人の男性を発見。3人がばらばらになる前に交戦した。
のちにシンワル氏と確認される人物は、「1人で建物の一つに駆け込んだ」。部隊はドローン(無人機)でこの人物の居場所を突き止め、殺害した。
シンワル氏は人質を「人間の盾」として使っていると考えられていたが、そうした人質はいなかった。シンワル氏の付き添いが少人数だったことからは、同氏が気づかれずに移動しようとしていたか、護衛の多くを失っていたことがうかがえる。
イスラエルのヨアヴ・ガラント国防相は、「シンワルは敗者として、追い詰められ、逃亡しながら死んだ。指揮官として死んだのではなく、自分のことしか考えていない人間として死んだ。このことは私たちに対立する、すべての敵への、明確なメッセージだ」と話した。
イスラエル軍は17日夜、殺害される直前のシンワル氏の様子だというドローン映像を公表した。
ほぼ全壊した建物の開いた窓から中に入ったドローンが、撮影した映像に見える。
がれきだらけの建物の2階部分で、ひじ掛け椅子に座り、頭を覆っている男性にドローンは接近する。
負傷している様子の男性は、棒状のものをドローンに投げつけ、ここで映像が途切れる。
シンワル氏を「排除」
イスラエルは17日午後、シンワル氏がガザで殺害された「可能性を調査している」と、最初の発表をした。
その直後、ソーシャルメディアには、シンワル氏とよく似た特徴を持ち、頭部に致命的な傷を負った男性の死体の写真が投稿された(あまりに生々しいため再掲載は控える)。
しかし当局は、「現段階では」殺害した3人とも身元は確認できていないとした。
間もなくして、イスラエルの複数の情報筋はBBCに、シンワル氏殺害について政府首脳らが「確信を深めている」と話した。ただ、死亡の確認は、すべての必要な検証を実施してからだとした。
それが終わるまで、長い時間はかからなかった。イスラエルは17日夜には、検証が完了し、シンワル氏の「排除」が確認されたと発表した。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「邪悪」が「大打撃を受けた」と述べた。しかし同時に、ガザにおけるイスラエルの戦争は完了していないと警告した。
徐々に絞り込み
シンワル氏は、彼を標的に練り上げられた作戦の結果として殺害されたわけではなかった。それでもイスラエル軍は、シンワル氏の居場所を示す情報があった地域で、数週間前から作戦を展開していたのだと説明した。
これはつまり、イスラエル軍がシンワル氏のおおよその居場所を、ガザ南部の都市ラファに絞り込み、徐々に彼に迫っていたことになる。
シンワル氏は1年以上、逃亡を続けていた。ムハンマド・デイフ氏やイスマイル・ハニヤ氏など他のハマス指導者が殺害され、ガザのインフラが破壊される中で、間違いなくイスラエルの圧力の高まりを感じていたはずだ。
イスラエル軍は声明で、ここ数週間のガザ南部での作戦が「ヤヒヤ・シンワルの作戦行動を制限した。彼は軍に追われ、排除された」とした。
大きな目標達成だが終わりではない
イスラエルにとって、シンワル氏の殺害は大きな目標だった。昨年10月7日の襲撃の直後から彼をマークしてきた。だが、彼が死んだからといって、ガザでの戦争が終わるわけではない。
ネタニヤフ氏は「借りを返した」としながらも、戦争は続くと強調。少なくとも、ハマスに拘束されている人質101人を救出するまでは継続するとした。
そして、「親愛なる人質家族のみなさん、これは現在の戦争における重要な瞬間だ。みなさんの愛する人たち、私たちの愛する人たち全員が家に戻るまで、私たちは全力を尽くし続ける」と述べた。
一方、人質の家族らは、人質の帰還につながる停戦の成立を望むと述べた。
(英語記事 How Israel found and killed Hamas leader Yahya Sinwar)